現代の建築では、あらゆる機械設備によって、快適な室内環境を維持することが可能だ。一方で、立地条件に合った自然素材を使って、意識的に機械に頼らないソリューションを実践する建築業者や施主もいる。熱交換式の機械換気装置、温度自動調整機能つきの冷暖房機、自動制御機能がついたブラインドやシャッターなど、増加する高度な電子制御機器付きの機械設備は、便利さをもたらすが、近年の建設コストの値上がりの一因でもある。とりわけ多様な人々が一緒に利用する公共建築物や企業のオフィスなどでは、建設費に占める機械設備コストの割合が、50%近くに達しているケースもある。独の工務店事例などをベースに解説する。
年春、フライブルク市で知り合いの建築士に案内されて、公共建築物(オフィス)を日本からの視察団と共に見学した。フライブルク市は公共建築物にはパッシブハウス性能を義務付けていて、通常より建設コストは高くなるが、その物件は、平米あたりの建設費がおよそ5000ユーロ(75万円)と、新築の平均的な建設費の2倍の額だった。
なかで働く人間がほぼ何もしなくても、室内環境がロスなく一定に保たれるように、センサー付きのあらゆる機械設備が組み入れられていた。私も視察団も半ば唖然とした。案内してくれた建築士も「やりすぎだよ。でも最近の依頼は、こういうのが多い。あまりいい傾向だとは思わない」と正直なコメントをくれた。
その設計事務所の別の建築士は最近、フライブルク近郊の田舎に、木と藁と土のマイホームを自分で建て、家族で住んでいる。仕事ではハイテク、プライベートはローテクというアンビバレントなのは彼だけではない。なんでも機械で解決しようとする現代建築に批判の目を向け、自然素材を使ってローテクのソリューションを顧客に提案し、実践する建築業者もいる。
断熱材は“麦わら”だけ
フライブルク市にある従業員約40人の工務店グリューンシュペヒト(キツツキ)も最近、木と藁と土の建設モジュールを開発し、売り出した。1986年に設立されたこの工務店は、フライブルク地域における省エネ木造建築を先導してきたパイオニアだ・・・
この記事は新建ハウジング10月30日号11面(2023年10月30日発行)に掲載しています。
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