日本が1970年(3月15~9月13日)に開催国となった『日本万国博覧会』(大阪万博)に単独出展した企業の一社である大手美容メーカーの社内から、建築家の故・黒川紀章さん(2007年10月12日没)が同社のパビリオンを設計・プロデュースした際のカプセル建築の資料が、このほど見つかった。内容からは、黒川さんらが提唱していた「メタボリズム」を体現した同パビリオンにおける建築思想を詳細に記したものや、当時の高度経済成長期における人間社会の大きな課題として、消費社会が加速する中、「住宅産業を考え直さないといけない時期にある」と発言した記録も残されていた。
思想と技術の融合
建築家の故・黒川紀章さんが1970年に大阪府吹田市で開催された「日本万国博覧会」(大阪万博)で、設計・プロデュースしたのが、理美容機器や化粧品などの製造販売を行う、大手美容メーカー・タカラベルモント(大阪市)が出展したパビリオン「タカラ・ビューティリオン」だ。
黒川さんらが提唱していた「メタボリズム」を語るうえで、象徴的な作品のひとつに位置付けられる「中銀カプセルタワー」があるが、カプセル建築として、そのファーストモデルとなったのが同パビリオンにあたる。1970年の万博終了後に取り壊され、現存していない。
中銀カプセルは、2022年4月~10月にかけて解体。有志による「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」や黒川紀章建築都市設計事務所の活動などにより、140基あったカプセルのうち23基が各地に残されているという。
当たり前の素材を 今までにない使い方で
タカラ社は、2025年に大阪市で開催を予定している「日本国際博覧会」(4月1~10月13日)に出展する。半世紀ぶりに見つかった資料は、万博の2回目の参加にあたって、社内機運を高めるため、単独出展で参加した1970年当時の資料を探していたところ、「大阪本社内で黒川紀章先生が手がけたパビリオンに関連する複数の資料が見つかった」(同社広報・石川由紀子さん)。
その中の資料のひとつに、万博の本番を間近に控えた1970年当時、パビリオンの建築にあたり、同社創業者の故・吉川秀信さんと黒川さんによる対話を記録した文章が残されていた。その中で、黒川さんはこう語っている。
「建築物の形がどうの、センスがどうのということになるとイタリアやフランス、アメリカの建築物がずっといい。ところが、システマチックに考えて建築をつくる能力は日本人が一番優れていると思いますね」
同パビリオンについては、「使っている材料は当たり前のパイプやジョイント。結合はスパナとボルトという単純な止め方で、カプセルはステンレス製。何が驚きかというと、材料に新しいものを使っていないし、今までにないジョイントの使い方をしていること」と説明。これから日本経済が成長するには・・・
この記事は新建ハウジング10月30日号1〜3面(2023年10月30日発行)に掲載しています。
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