東京都・神田駿河台にある歴史的ホテル「山の上ホテル」は10月23日、建物の老朽化対策のために2024年2月13日から当面の間、休館することを明らかにした。ホテル側は「竣工から86年を迎える建物の老朽化への対応を検討するため」と説明している。
「山の上ホテル」は1937年(※1936年との説あり)、九州の石炭商・佐藤慶太郎氏によって建設された「佐藤新興生活館」が前身。建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏が設計し、施工は清水組(現・清水建設)が担当した。1930年代、ニューヨークの高層ビルなどに採用されたアール・デコ様式を取り入れた内外装が特徴となっている。太平洋戦争中には帝国海軍、戦後はGHQに接収され、陸軍婦人部隊の宿舎として利用された。
その後、創業者である吉田俊男氏が建物を譲り受け、1954年にホテルを開業。出版社がひしめく東京・神田という土地柄もあり、川端康成、三島由紀夫、池波正太郎、松本清張などの名だたる作家が定宿し、創作活動に打ち込んだ。
改修か、それとも再建か
建物は、1978年から1980年にかけて大規模改修と増築工事(施工:鴻池組)が行われたほか、2019年にも約40年ぶりに改修工事を行っている。1980年の改修では竣工当時の趣を残しつつ、屋上に結婚式場の増築を行う必要があったため、壁や柱の耐震補強のために、当時まだ一般的ではなかった「トラスウォール工法」を採用した。
1980年の改修時にも、「改修すべきか、取り壊して再建すべきか」という問題に直面し、設計者である建築家の阿井和男氏や渡辺邦夫氏(構造設計集団・SDG元代表)を悩ませたと言われる。近現代の歴史的建造物が老朽化により、次々と姿を消す時代にあって、「山の上ホテル」にどのような判断が下されるかに注目が集まっている。
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