LIXIL(東京都品川区)がこのほど開催したオンラインセミナーで、大橋利紀建築設計室/livearth(リヴアース、岐阜県養老町)社長の大橋さんが、住宅設計の風と光の扱い方や、心地良さを見える化するという視点で、窓に注目した考察を講演した。その模様を連載記事としてまとめた。
設計とは、その合理性とは
私は「設計とは、ある理念や哲学にのっとって、様々な要素を合理的に検討し形にしていく作業」だと考えます。
設計には、耐震、温熱、維持管理、長寿命、環境問題、空間体験、作業工程、コスト、社会性、収益性、使い勝手など多様な検討要素があり、1つにフォーカスすることはできません。
暖かい、地震に強い、デザインがいいだけでは足りず、科学的な知識、定量的な要素に偏っても合理的とは言えません。情緒性も必要です。
複雑な世界の中で、できるだけ多くのものごとにフォーカスしながら総合的につくり上げることが設計における合理性であり、住まいを設計するうえでとても大事なことだと思います。
決めつけず、共感して進む
住まいは、「性能×情緒性×生活のしやすさ」の3つの要素から成り、それらすべてが高いレベルで実現できたときに初めて、質の高い暮らしが始まります。3つそれぞれが膨大な要素技術を含み、その1つひとつが複雑に絡み合って存在します。
ですから、繰り返しになりますが、どれか1つに偏り過ぎず、多くのものごとにフォーカスをしながら総合的につくり上げることが大切です。
価値観が多様になっているいま、絶対的に正しいことも、絶対的に間違っていることもありません。「こうでなくてはいけない」と決めつけるのではなく、さまざまな価値を受容し、共感のなかで住まいづくりを進めたいと思うのです。
新しい建築的風景を窓からつくる
古来、日本は陰翳を階調(グラデーション)として捉え、狭小空間を「素材+陰翳+鈍く輝く光(金箔・漆)」で最大化する美意識があります。
この美意識と伝統技術を現代に受け入れられる形として再構築することで、新たな建築的風景が生まれるはずです。「窓」の解釈と設計の実践が、その糸口になると考えます。
私たち工務店は、日本の風土に根ざした風景をつくることができる数少ない担い手です。
素材が持つ物語を大切にし、色と形に必然性を持たせた、シンプルで長く愛される家を提供することができます。
不確定な時代だからこそ、理念と哲学をもって社会での役割を果たし小さくもキラリと光る「スモールエクセレント工務店」を目指していきたいと思います。
《次号 大橋×三浦特別対談編》
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