業界で注目される事例はほぼ成功した企業例です。未成熟な業界ほど成功事例には示唆があり、複数の成功事例から導き出される共通項は、さらに価値があると考えています。一方で成功事例の陰には失敗事例が存在するのも事実です。成功事例だけでなく、うまくいかなかった事例も取り扱うことで、また一歩、リノベーション事業の展開に向けて、考え方を深めることができるかもしれません。
そのような思いで今回は軌道に乗らなかった、または、乗りづらいパターンというテーマで全体像や集客、営業・組織面に分けて、問題点と私なりの脈絡で解決の方向性も合わせて書き記したいと思います。もしも、盲点に気づいたり、将来への備えとなったりしたならば、そこにこそ、この記事の趣旨があると考えています。
<今回の記事の前提として>
・断熱や耐震をともなった戸建てリノベーション事業の失敗パターン、問題点
・過去コンサルティング先で記憶に残る失敗例と他で見聞きした事象、発展途上の取り組みも含む
・リノベーション事業で新規集客、または成約がなかなかできなかったというケース(「目標年商3億円で実績は2.5億円だった」「3億円を超えた後、拡大できなかった」等、目標未達という意味合いの事例は除く)
・特定の企業、特定の人を否定的にとらえるものではなく、隠れがちな失敗例や問題点を形式知として扱うのが狙い
1.全体像、ポジショニングの問題
①「木を見て森を見ず」全体設計ができていない状態
まず、最初に取り上げるのは、各要素が「点」になっていて、全体でつながりができていないというケースです。例えば性能向上を体感できるモデルハウスやモデルルームを開設したとしても、地域に存在が認知されていないというケースが増えているようです。
また、たとえ認知されて来場客が増えたとしても、接客の体制ができなかったり、営業の仕組みが弱かったりして、成約につなげることができないという例もあります。いずれも、全体設計、いわばパズルのピースが揃っていないため、事業化しづらいというケースです。
<解決の方向性>
リノベーション事業に限らず、事業化とはお金がまわることであり、すなわち、部分最適、局所最適でなく、全体最適が必要であることを意味します。
下記にハード面、ソフト面を含めた全体像をシンプルにした図表を掲載します。図表のように、人材も含めたつながりがある全体像を描き、各要素が相互に補い、強め合うという考え方が大切です(集客や営業・組織面に関しては後述)。
※まずは全体像を描いた上で各要素をつなげることが大切だと筆者は提言する(下図)
②位置取りという基本戦略の失敗パターン
戸建てリノベーション市場を広くとらえると、その領域でフルライン(全方位)を狙う大手リフォーム会社が存在します。
つまり、今から取り組むということは、一部エリアを除き全国のどのエリアでも、後発になるという状況です。トップシェアの大手リフォーム会社と似たような訴求、重なるようなポジショニングでは、同じ土俵での戦いとなり、厳しい状況になることが容易に想像できます。
価格で勝負するという考え方もあるかもしれませんが、相手も日々コストダウンを追求しています。30分で見積りを算出できるシステムをはじめ、スピード営業や診断営業の仕組みも構築しています。特に高いクロージング力をもつ店長クラスや大幅値引きが承認されている支店と競合すると苦戦することも少なくありません。
<解決の方向性>
後発であれば、専門特化は大前提として差別化要素が必要だと考えるのがセオリーです。単に差別化を目的とするのでなく、強みに立脚しながら、「競合が徹底できていなくて、お客様にとって良いこと」を追求することが肝要です。
顧客を引きつけて、優位に立つためには断熱耐震の追求なのか、性能向上は当然のこととして自社ならではのデザインや情緒的な訴求なのか等、地域や自社の強みに応じて方向性を見極める必要があります。
2.集客面の問題
①集客上の顧客接点の整合性がない
前述の全体設計の中の1つのパートになりますが、チラシ等紙媒体だけをアレンジして、あとは水まわり中心のホームページ(施工事例の大半が水まわり交換)、ショールームの展示品も水まわりのみというパターンは当然うまく行きません。
当初開設予定だったリノベーションの専門サイトも、リノベーションモデルハウスも確保できず、事業を軌道に乗せることができなかったという経験が少なくとも過去に2度ありました。たとえリノベーションに対応できるスタッフがいたとしても、水まわりやLDKリフォームの延長戦上にリノベーション事業があるという認識が根底にある場合は特に要注意です。
<解決の方向性>
マーケティング先行で施工品質が後まわしではいけませんが、高い施工品質を有していることを大前提に、業績のトップラインと言える顧客接点(紙媒体、SNS、WEB、店舗等)が一貫していること、それぞれがかみ合って機能することが、軌道に乗っている会社の共通項の一つです。
※まずは業績のトップライン(集客上の顧客接点)で一貫性を持たせる(下図)
②明らかに発信が不足している
新築のコンテンツや発信は徹底していても、リノベーションの関連コンテンツが全く無かったり、発信も圧倒的に不足していたりという例は特に多いです(研修でお会いする工務店の多くがこのパターン)。また、見学会、相談会、セミナーといった販促企画の開催数が新築事業の10分の1にも満たないという例もよく目にします。
<解決の方向性>
何より施工事例の質と量が信頼につながりますが、リノベーション事業の場合は、やはり性能向上コンテンツの充実は大きなポイントです。また、リノベーションの販促企画数も目安の一つです。特に完成見学会は該当物件がないとできないことではありますが「1開催1リノベ受注」という指標があり、最も理にかなった手法と言えます。前述の全体像を整えながら、完成見学会を継続開催できるような善循環をいかにつくれるかがカギとなります。
(後編に続く)
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