LIXIL(東京都品川区)がこのほど開催したオンラインセミナーで、大橋利紀建築設計室/livearth(リヴアース、岐阜県養老町)社長の大橋さんが、住宅設計の風と光の扱い方や、心地良さを見える化するという視点で、窓に注目した考察を講演した。その模様を連載記事としてまとめた。
ここからは「夕暮れの家」の完成写真を見ていただきながら、設計の意図を簡単にご紹介します。
[外観]
2000年に床上浸水したエリアであるため、基礎高さを1mに設定。高基礎の足元に植栽を配置するなどバランスを考え、階高を周辺の家よりも抑えることで美しい佇まいとした
[玄関ポーチ]
地盤面を緩やかに上げつつ階段を上った先にベンチを置いた
[階段]
2階が生活の中心。階段上部には冷気止めを設けている
[スタディコーナー、キッチン]
R天井で柔らかく包む。写真左が風景と風を入れる窓、正面が風を抜く窓
[ダイニング]
西側の美しい眺め。日射遮蔽のため格子網戸+Low-Eガラス日射遮蔽型+内部にロールスクリーンを設置している
[スタディコーナー、ダイニング]
写真右は風景と日射取得の窓、左は風を抜く窓
[リビング]
掃き出し窓+格子網戸。2階リビングの場合、デッキ空間を設けると豊かに暮らしやすい。高木を植え、2階デッキの近くに葉が広がるようにするといい
また、基本性能を高いレベルでクリアするためにさまざまなシミュレーションや計算を行っていることを補足的に触れておきます。
◉耐力壁
構造に関しては、いかに余力を持たせるかが重要だと考えます。
リヴアースでは「耐震等級3の1.3倍の壁量を持たせること」をルールとしており、許容応力度計算を同時に実施します。
「夕暮れの家」では、耐震等級3の1.49倍の壁量(準耐力壁含まず)としました。
せっかく壁量を強くしても水平構面の剛性がしっかりしていないと意味がないため、床倍率にも余力を持たせます。「夕暮れの家」では、耐震等級3の必要床倍率の4倍としています。
◉通風シミュレーション
道路に面した西面に《空気の入口》となる大開口を設置、隣家に囲まれる北・南・東面はそこまで大きな窓は取れないため小窓を分散配置して《空気の出口》としています。
大きな窓でなくても小窓を分散して配置することでも風量は確保できます。
◉照度シミュレーション
調理や食事、読書、学習などタスクの発生する位置には文字が読める程度の照度を確保します。
◉日当たりシミュレーション
日射熱取得、日射遮蔽、西の眺望という相反する3つの要素を多元的な視点で解決すると、一次元上の世界が実現できます。これを夏と冬の日当たりシミュレーションを比べて表現します。
《夏》8月22日 西面窓①②③からの日射熱をみる
13:00 ①なし、②なし、③なし
14:00 ①なし、②なし、③なし
15:00 ①約25%の日射熱、②なし、③なし
16:00 ①約60%、②約30%、③約30%の日射熱
17:00 ①約70%、②約40%、③約40%の日射熱
18:00 ①なし、②なし、③なし(日の入り)
左:8/22 13:00、右:8/22 16:00
《冬》12月22日 西面窓①②③からの日射熱をみる
12:00 ①約15%、②なし、③約30%(夏場より2時間ほど早く日射取得を開始)
13:00 ①約40%、②約20%、③約15%
14:00 ①約60%、②約40%、③約40%
15:00 ①約80%、②約50%、③約50%
16:00 ①約70%、②約50%、③約50%
17:00 ①なし、②なし、③なし(夏場よりも1時間早く日の入り)
この日当たりシミュレーションをもとに、夏は庇と格子網戸、ブラインド、Low-Eガラスで日射熱取得量をコントロールします。西面からの日射熱取得量の合計を夏と冬で比べたところ、夏よりも冬の方が大きく、冬の日射熱取得に有利であることがわかりました。西面のみが開けた不利だと思われる立地でも、夏の日射遮蔽、冬の日射熱取得、西の眺望を同時に実現できることをシミュレーションで検証できるのです。
日射熱取得シミュレーション 西面の日射熱取得量合計は夏場<冬場
◉温熱環境
冷暖房をしていない自然室温をシミュレーションし、建物全体の平均で快適領域(18-28℃)になる割合を見たところ、冬場18℃未満になるのは16%、夏場28℃以上になるのは24%でした。
南側に面しておらず、自然室温のみで夏冬を快適領域で暮らすのは難しいため、冷暖房が必要だということがわかります。
さらに、暖房負荷、冷房負荷をシミュレーションし、金額換算すると、暖房費は4万2362円、冷房費は1万3868円で、年間約5万5000円の暖冷房費で暮らせることがわかります。
太陽光パネルを少し載せればゼロエネルギー住宅もしくはマイナスエネルギー住宅になります。
一次エネルギー消費量は等級6を、余裕をもってクリアしています。
《続く》
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