気候変動対策に取り組む企業や自治体、NGOなどで構成される「気候変動イニシアティブ」(JCI)は10月6日、年次イベント「気候変動アクション日本サミット2023(JCAS2023)」を開催した。
今年のサミットでは、国内外のさまざまな分野からスピーカーが登壇。基調講演では、「国連責任投資原則」(PRI)議長のマーティン・スカンケ氏が、気候変動対策における機関投資家の役割や在り方について説明した。PRIがESGを投資の慣行とすることを目指す中、投資家たちの間で気候問題に対する関心が高まっており、石油ガス企業をはじめとした企業が気候関連のリスク管理を行っているかを確かめるために、意図して厳しい質問を投げかけることもあると話した。
続いて、再生可能エネルギーの需要企業による連合体CEBAのマーク・ポーター氏が、深刻化する世界の気候危機の状況と、その解決策となる再生可能エネルギーの可能性について述べた。
「脱炭素の協働」などテーマに議論
パネルディスカッションでは、「セッション1:脱炭素の加速」「セッション2:脱炭素の共創・協働」の各テーマで、脱炭素に取り組む企業や自治体の担当者らが登壇した。
セッション1では、鳥取環境大学の江﨑信芳理事長が、大学におけるCO2削減に向けた取り組みを紹介。同校は鳥取市などとともに環境省の「第3回脱炭素先行地域」に選定され、地域の再エネ由来電力を活用した脱炭素化に取り組んでいる。
CO2排出量を2030年までに対2013年度比で60%削減する目標を掲げ、校内に太陽光発電を導入したほか、校舎のZEB化(断熱・LED化など)を推進した。このような脱炭素に関わる環境活動や研究を教職員と学生がともに行うことで、他の大学のロールモデルになることを目指している。
他に、SBTi(Science Based Targets initiative)から「ネットゼロ認定」を取得した富士通、再生プラスチックを50%使用し、CFP(カーボンフットプリント)を27%低減した複合機を開発したリコー、環境情報開示を推進するCDPで3年連続Aリスト入りを果たしている花王の各社が、自社の取り組みを紹介。政府に期待することなどについて意見を交わし、脱炭素化をよりスピーディーに進めるべきだという共通意見が出された。
セッション2では共創・協働の事例として、浜松市役所の東儀昂主任が、浜松市内で進める開発プロジェクト「一条タウン西伊場」(事業主体:一条工務店)を紹介。浜松版スマートタウン開発支援事業(補助金額:約1億9000万円)として、JT浜松工場跡地に環境負荷の低減と暮らしの質向上を目指したスマートタウンを建設する計画となっている。東京ドーム2.5個分(約10万6000㎡)の敷地内にZEH仕様住宅181戸、エネファーム付マンション(1棟92戸)などを建設するほか、イオンリテールの再生エネルギー100%都市型ショッピングセンターの出店も決まっている。
三菱自動車工業はモビリティの電動化を進める中で、日本郵政などと協働して取り組んだ電動車両の走行データの活用事例を紹介。(一社)SWiTCHは若者が中心となって行う脱炭素への取り組みを、第一生命ホールディングスは投融資活動を通じたネットゼロに向けた取り組みを紹介した。なぜ共創・協働が重要なのかについては、「税金を使って自治体にできることは限られているため、事業者の力を使って活動範囲を広げる必要がある」(浜松市)、「人材がいるところと組むとスピードが上がり、社内で余分なリソースを使わなくて済む」(三菱自動車工業)などの意見が出た。
「リーダーズサークル」がキックオフ
また、JCIのトップリーダーが集う「リーダーズサークル」のキックオフイベントとして、「トップリーダーズセッション」を実施。それぞれの立場からリーダーとしてのメッセージを述べた。リーダーズサークルは、①他の非政府アクターの取り組みをけん引すること、②各組織の気候変動対策をより先進的で実効性のあるものに向上させ、リーダー自らがメッセージを発信すること、③気候変動対策に関する政策提言を主導し、政策決定者と直接対話を行うこと―が求められている。
最後に、加藤茂夫JCI共同代表が「気候の沸騰化を阻止するためには、非政府アクターのわれわれが政府の政策を待つことなく、気候変動アクションを起こすこと、世界のスタンダードでプレイすることが重要だ。そうしなければ国際競争力の維持向上が図れず、日本あるいは日本経済全体が世界から取り残されてしまうだろう。一人一人の努力をつなげてコラボレーションしながら、政策への提言を続けていかなければならない」と述べて閉会した。
各セッションの登壇者は次の通り。
【トップリーダーズセッション】
モデレーター:国谷裕子さん(ジャーナリスト)
呉文繍さん(国際航業代表取締役会)▽大川哲郎さん(大川印刷代表取締役社長)▽大関洋さん(ニッセイアセットマネジメント代表取締役社長)▽鈴木悌介さん(エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議代表理事)▽原科幸彦さん(千葉商科大学学長)▽門川大作さん(京都市長)※ビデオ出演
【セッション1 脱炭素の加速】
モデレーター:松川恵美さん(CDP Worldwide-Japan)
青柳一郎さん(富士通Solution Service Strategic本部本部長会)▽江崎信芳さん(公立鳥取環境大学理事長会)▽鈴木美佳子さん(リコーESG戦略部部長)▽高橋正勝さん(花王 ESG活動推進部長)
【セッション2 脱炭素の共創・協働】
モデレーター:田中健さん(WWFジャパン)
岩本和明さん(三菱自動車工業モビリティビジネス本部長)▽佐座マナさん(一般社団法人SWiTCH代表理事)▽曽我野秀彦さん(第一生命ホールディングス常務執行役員)▽東儀昂さん(浜松市役所カーボンニュートラル推進事業本部主任)
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