第3回目は、建築情報技術について、見方を変えた話をしようと思います。タイトルにもあります「枯れた技術の水平思考」は、任天堂で数々のヒット商品を生み出してきた故・横井軍平氏の思想を表現する言葉です。
最先端の技術を惜しみなく投入し、コストや内容ともに超ヘビー級のプロダクトを作ることは可能ですが、きっと一部のお金持ちにしか楽しむことはできません。最新技術におんぶに抱っこになれば、それは、おもしろくするための知恵を絞らずにできてしまった駄作となるでしょう。
皆が手にとって楽しむことができるものを作るためには、身の回りにすでにある、廉価でこなれたものをうまく組み合わせる必要がある、というのが横井流の設計思想なのです。
それによって生まれた商品は「ゲームウォッチ」、「ファミコン」ことファミリーコンピューター、「ゲームボーイ」など知らない人はいないものばかりです。(さすがに「ゲームウォッチ」は古すぎるかもしれませんね)。
「枯れた技術の水平思考」はなにも玩具だけの話ではなく、なにか新しいものを作ろうとしたり、設計をしようとしたりするときにも有用な考え方だと私は思います。
「BIMソフト」というジャンルでも多数のソフトが存在し、毎年のように新しいものが登場していますが、それを使いこなしていくことは本当に一苦労です。
本連載で再三述べているように、すべてを兼ね備えた夢の一気通貫ソフトはあくまで夢なので、要するに「BIMソフト」を含めた様々な既存のソフトをいかに適材適所で使いこなすかが重要なのです。
「BIMソフト」を使わないとBIMじゃないかといえば、全然そうではなく、業務全体の情報マネジメントプロセスがBIMなので、「だれが・いつ・どのソフトで・どの情報を入力し・どの出力をするか」さえ定義されていれば、極論ではソフトウェアはエクセルとワードだけでも十分なのです。(このときのエクセル・ワードはそうです、「枯れた技術」です)
BIMのない世界
Aさんのご希望を叶えるべく、Cさんは張り切ってCADで図面を書き・スチレンボードを駆使して模型を作ります。B所長の厳しいこだわりや理不尽な指摘を乗り越えなかなかの自信作が出来上がりました。
Aさんに図面と模型を見せてプレゼンをすると、評判も上々で、次は家がいくらになるかを見積もって、お客様の了解を得るステップに進めることになりました。そこでDさんへ見積もりを依頼しに行きます。
Dさんは、受領した図面をみて、「このへんの仕上げとかどうなってるのかなあ」「構造はだいじょうぶかなあ」とか「サッシのサイズが住宅用じゃないけどさてどうするかなあ」とか「これお風呂はユニットバスじゃなくて現場施工?」とかブツブツ言いながら、それなりに資料をまとめ、各建材メーカーに材料見積もりを依頼します。
棟梁のEさんにもどれくらいで工事終わりそうか確認し工数を出してもらうことにしました。3週間くらいして、各社から見積もりも届いたのでまとめて建築施工費を算出し、Cさんに提出しました。
Cさんは、出てきた見積もりをみてびっくりします。「えっ、こんなに高いんですか?」。Aさんからおおよその予算は聞いていたので、仕方なくコストダウン案を絞り出します。B所長からも大目玉です。C:「はあ、また不夜城か…」。
BIMのある世界
Aさんのご希望を叶えるべく、Cさんは手でスケッチを起こしながら使い慣れたフリーの3D-CADでモデリングを進め、建物の形を整えていきます。プレゼンについてもその3D-CADと連動した高速・高性能のレンダラーを使えば、リアルタイムにAさんへ見せることができます。Aさんの要望も即時に反映されていきます。
そして、見積もりを出すのに際して、Dさんと事前に話し合って決めた仕上げ表フォーマットに想定される材料を記載しておきます。これでDさんは図面とにらめっこしなくても、各メーカーに見積もりを依頼しなくても掛け率だけの調整で全体の見積もりを弾くことができます。
DさんはCさんに翌日には見積もりを返すことができました。Cさんは、コストの高いパートを容易に予測できるので、少々仕様とモデルの調整を行うことでコストをあわせることができました。Aさんにも納得していただき契約となりました。Cさんは、今度は使い慣れた2D-CADで申請図書を落ち着いて起こし始めました。
つまり、ルールを決めて、「だれが・いつ・どのソフトで・どの情報を入力し・どの出力をするか」さえ定義できていれば、個々に使うものは適材適所の「枯れた技術」で十分なのです。そうです、上の【BIMのある世界】では、「BIMソフト」さえ使っていません。それでも十分BIMなのです。これまでの設計は図面を一生懸命書くことにこだわりすぎて、情報を定義し次工程に連携してくことをあまりにもおろそかにしていたのではないでしょうか?
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