安全持続性能は「『世代かんけいなく安心・安全に住み続けられる家』にするため」の「間取り」の基準です。
そもそも、家庭内事故を防ぐためのものなのになぜ間取りなのか、とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。まずはそこから説明しましょう。
安全な家づくりのために広く使われているバリアフリーの概念は、主に高齢者や障害者が生活する上で障壁となるものを取り除こうとするものです。ですから、高齢者にとってはいいのですが、同じく家庭内事故の被害者となりやすい子どもや妊婦さんなど、社会的に不利になりやすい立場の方々のことは考慮されていないのです。
安全持続性能は子どもから若者、お年寄りまで、幅広い世代の人がみんな安心して暮らせることを主眼に置きました。段差をなくしたり、手すりを付けることももちろん重要ですが(安全持続性能にも、段差や手すりはもちろん含まれています)、体のことだけではなく世代によって変化していく家族構成やライフスタイルに対応するためにも、間取りのことを考える必要があったのです。
安全性・持続性の計13項目で基準を提示
安全持続性能は、安全性(転倒・転落の予防設計)と持続性(安全に住み続ける設計)の2つに分かれており、合計13の項目があります。
安全性
玄関室内側(上がり框やいす・手すりの有無)
階段(手すりや足元灯、踏面の滑り止め)
階段の段さ(勾配、踏面や蹴上の寸法)
スキップフロア(段差)
収納・換気システムフィルター(安全に収納・交換するための位置)
持続性
土間収納(車いすやベビーカーの収納)
1階廊下(車いすや歩行補助具の使用への配慮)
トイレ(扉の開き方や開口幅、全体の寸法)
ユーティリティルーム(体や暮らしの変化への対応)
室内干しスペース(洗濯物を干す負担の軽減)
洗面室(いすや歩行補助具が置けるだけの広さ)
照明(リモコン・人感センサーの有無)
温度(健康を損なわない室温)
その他、基準には含まれませんが、人気の高い小上がりスペース(=段差)も参考として情報を掲載しています。
一方、日常生活に欠かせない浴室やキッチンも、確かに事故防止の観点からは重要ですが、あえて外しました。
浴室(入浴)は、身体機能が衰えると危険度が非常に高まるので、入浴サービスやデイサービスなどの外部サービスを利用することが望ましいからです。キッチンはベビーゲートで子どもが入れないようにしておけば、安全性は確保できるからです。
評価は☆~☆☆☆の3段階
各項目ごとに「最高(☆☆☆)」「推奨(☆☆)」「最低(☆)」の3段階で評価し(「最低」のない項目もあり)、各項目の☆の合計で家全体を3段階評価します。
勘違いしていただきたくはないのですが、決して「最高(☆☆☆)でなければだめ」ということではありません。
最高(☆☆☆)はかなり厳しい基準です。医療関係者としては最高を推したいところではあるのですが、工務店が取り組むにはそれなりの理解や工夫が必要になるでしょうし、敷地面積の制限などもあります。
まずは推奨(☆☆)の基準を満たすことを考えてください。総合評価での推奨は、これまで認証した住宅のほぼ全てがクリアできています。
最近は建築費の上昇などもあって、延べ床面積を抑える傾向もあるようですが、コンパクトな住宅の安全性評価はなかなかの悩みどころ。例えば、階段は事故リスクが特に高い箇所ですが、誰しもが広い土地に平屋を建てられるわけではありませんよね。
全項目に配慮することが難しかったら、以下の通り、優先度の高い項目から基準を満たすことを考えていただければと思います。
1.トイレ(子どももお年寄りも毎日、何度も使う場所)※複数のトイレがある場合は1階を優先
2.階段(子どもからお年寄りまで転落のリスクを軽減する)
3.段差なし(転倒・転落リスクを軽減する)
工務店の皆様に伝えたいこと~おわりに
現在、安全持続性能の会員となっていただいている工務店は全国で19社。安全持続性能は住まい手だけではなく、工務店にもいい影響を与えているようです。
安全持続性能を設計に取り入れた中国地方のA社は、健康に関心の高い医療関係者からの問い合わせが急増したそう。「安全持続性能を取り入れて、数年後に自宅を新築したい」という方とマッチングもできています。
それだけ“安全で健康に過ごせる家”へのニーズが高く、安全持続性能に取り組むことで工務店への信頼や評価も高まったから、と私は見ています。
新建ハウジングDIGITALでの連載は今回が最終回となりますが、今後もあらゆる人にとって安心・安全に住み続けられる家が少しでも増えるよう、微力ながら努力していきたいと思っています。
しかし私一人では限度があります。志のある工務店や住宅関連事業者の皆様にもお力添えをいただけたらありがたいです。安全持続性能についてもっと詳しく知りたい、という方は、ぜひ弊社ホームページからメールでお問い合わせください。
満元さんの著書『作業療法士が伝えたい ケガをしない家づくり 住宅内事故を防ぐ50の方法』(学芸出版社)が発刊されました!詳しくはこちら。
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