「リノベーション事業について知っている」「リノベーション事業の概要は聞いたことがある」―そんな声を耳にする機会が増えてきました。一方で「本格的な参入はまだできていない」「たまたま反響があれば対応する程度だ」という状態のままというケースが多いのが現状です。そこで今回はリノベーション事業の本格参入を検討しているという方に向けて、新規事業としてのリノベーション事業という切り口でお伝えすることで、一筋でも道を照らすことができればと思います。
新規事業というと心理的な負担を感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、そもそも私が想定するリノベーション事業は、ゼロベースからの参入ではなく、「過去に数件でも2000万円級リノベーションの実績がある」「リノベーション案件が発生すれば設計ができる」「施工管理できる人材もいる」といった会社が本格的に事業化するというものです。
つまり、自社が既に保有している建築リテラシーを主軸に、ときには新築事業のブランドやイメージといった要素も掛け合わさって、軌道に乗るイメージです。新築事業の隣にある業際ともいうべきリノベーション市場でフィットする経営資源を活用し磨き上げていくという事業であると私は考えています。
時代の変化が激しいこともあり、今持っていない「新しいものが良し」となりがちですが、既に保有するコアの部分を過小評価せず、見つめ直す機会にしていただきたいと思っています。
自社の強みは何なのか?
「新規事業に取り組む際に強みを活かす」という考え方がありますが、そもそも「自社の強みとは何か」「創業以来、重視してきたことは何か」というところで立ち止まるケースもあるようです。そこで、まず取り組みやすいこととして、社内で創業以来、受け継がれていること、これからも継承していくべき理念、DNAといった中核にある概念を出し合って再確認するというワークがあります。
同時に自社にとって象徴的だと思えるお客様(OB客)に面談し、客観的な声を収集できれば、何か気づきを得られる可能性が高まります。お客様に対しては「自社に対するイメージや印象」「依頼したいと思った決め手」「日々の暮らしの中で大切にしていること」等をヒアリングすると良いでしょう。
実際は「担当の〇〇さんの人柄が依頼した一番の理由」といった属人的な回答も含まれたりしますが、社内とお客様から浮かび上がった言語の中に何かヒントがあったりします。対象となるお客様は2組3組でも構いません。
あまりハードルを上げすぎないことがポイントです。限られたサンプル数でも、キャッチコピーだけの議論に終始したり、一つの事例を横展開したりといったことに比べて、自社なりの最適解に近づけると考えています。
強みや理念が既に自然体で共有されている会社もある一方で全く共有できていない会社もあります。もし、社員それぞれがバラバラな認識であれば、職種、階層に関わらず、明確に共有する機会にしていただきたいと思います。
機能的価値、経済的価値、情緒的価値
次は前述の強みや理念を前提に、さらにお客様とのつながりで考えるリノベーションならではの3つの価値についてです。3つにきっちり分けられるとは限りませんが、あくまでも私なりの解釈で一つ目の機能的価値には断熱や気密、耐震といった性能向上という概念や施工品質等があり、各性能数値はそれぞれを支えるエビデンスとなります。
断熱や耐震の訴求はまだ多くの地方エリアで、差別化しやすい印象ですがやがて類似化することを見据えておくべきでしょう。
2つ目の経済的価値は「同等性能の建て替えに比べて8掛けだ」「(シミュレーション上)光熱費が年間で10万円削減できる」といったものが該当します。経済的価値は客層コントロールという目的であえて訴求しないという考え方もあります。3つ目の情緒的な価値とは、感性に訴えるデザインという要素もあるでしょうし、お客様を主語にしながら実家に詰まった思い出というプライスレスな価値もあります。
ここでは「どのようなリノベーション会社でありたいか(存在意義)」「会社側が考える強みや価値とお客様側が求めるものにズレがないか(未顧客理解)」「自社が考えるリノベーションというカテゴリーをいかに伝えるか(提案性)」という観点で、自社ならではの価値を追求していただきたいと考えています。
地域で「リノベーションならこの会社」という存在になる
新規事業として取り組むのなら、社内でリノベーションの共通した定義を持つこと、そして市場に対して自社が正しいと信じるリノベーションのメッセージを発信し、その領域でポジションをとることをぜひおすすめします。
多くの地方エリアでリフォーム市場が成熟期にあり、顧客の選択眼がシビアになる中、リノベーションはA社に、LDKリフォームはB社に、水まわりのリフォームはC社に、外壁塗装はD社にというように各領域で棲み分けが進んでいくと予想されます。
エリアによっては、リノベーションの中でさらに細分化されていくことでしょう。同じ業界、同じような領域でも競合とは限りません。理想論と思われがちですがリフォーム市場すべての領域で戦うのではなく、専門特化し、自社らしさを磨き上げることで「戦わずして勝つ」「戦を略す」に通じる事例が生まれつつあります。
リノベに対するネガティブイメージとポジティブな側面
「これからはリノベーション事業だ」と聞くと、本業や他の事業との比較で「リノベーションは大変、新築は楽」「リフォームに比べて、リノベーションはリードタイムが長い」「粗利も読みづらい」といった声もあるようです。
こうした声がある一方で、私のクライアントにはすべてとは言いませんが「我々が取り組む領域だ」といった使命感、「古民家という日本の文化を壊すのではなく残していきたい」「様々な現場があり、学びを得られて成長できる」といった内発的な動機で働く社員が少なからず存在します。
生産性を軽視するわけではありませんが、こうしたマインドで働く社員が多い会社(事業部)は好不況にかかわらずブレることがありません。
また、リノベーション事業は、新築事業との相乗効果を得られるという側面もあります。部門間に大きな壁が立ちはだかる会社は案外多いですが「建て替えかリノベーションか迷っている」という相談客に全社的に向き合うことができれば、双方の事業で顧客創造できる点は大きなメリットです。
軌道に乗せるまでの準備期間
とは言え、いとも簡単にリノベーション事業が立ち上がっていくことはめったにありません。リノベーションの専門サイトや店舗開設に至るまでの期間、組織や施工体制を整える期間等々、事業化の全体像、中でも集客上の顧客接点が構築されていく過程でこうした準備期間は当然必要です。
施工事例コンテンツが少ないならなおさらです。特にリノベーション事業に着手して10ケ月から1年間は全体設計をもとに地道に一つひとつ落とし込み、ビジネスモデルを構築していく、次の1年間はリノベーション案件を確保しながら、さらに精度を高めていく。時には停滞期もあるでしょうが、こうした全体観や中長期の視点が不可欠です。
「実践→気づき→改善」の繰り返しを
以上、強みや理念をベースにしたリノベーションならではの価値といった新規事業としての考え方を一部事例も用いながら、述べさせていただきました。
根源的な部分を見つめ直す過程で、社長と社員の認識のズレ、あるべき姿と顧客接点で発信していることのギャップ、自社の強みとお客様の実現欲求とのつながりの無さ等気づかされることもあるでしょう。
その気づきにこそヒントがあり「実践→気づき→改善」の積み重ねが自社ならではのリノベーション事業となり、結果として地域で競争優位性を高めることにつながると信じています。
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