新築の現場でのこと。建て主はエンジニアという職業柄か、数値に大変厳しく、施工の精度が気になるようだった。コンベックスと図面を片手に現場に足しげく通い、「現場監督」を自称するほど。数ミリでもずれがあると現場監督を問いただす様子に、職人たちもストレスを抱えるようになり…。
その建て主の口癖は「自動車の工場の精度はこんなもんじゃないですからね?」。工場の管理システムに関わる仕事をしているらしい。地場の工務店を経営するCさんは、多少うんざりしながらも、「建て主さんが現場に関心を持つのはいいこと」と捉え、その建て主から質問されるたびに、丁寧に家づくりの現場事情について説明をしていった。
「製品として傷があるものを認めるわけにはいかない」
最初に問題が起きたのは基礎工事のときだった。一部にいわゆる「ジャンカ」が認められたのだ。Cさんとしては、「表面だけのわずかなものだし、問題はない」と判断していたが、建て主はなかなか納得しない。「製品として傷があるものを認めるわけにはいかない」という言い分も正論ではあるのだが…。最終的にはモルタルで表面を補修するということでなんとかおさめることとなった。
「いま思えば、あの時点で家と自動車のつくり方の違いについて、しっかり話をしていたほうがよかったのかもしれない」とCさんは振り返る。上棟の時点でも建て主は細かく写真を撮ろうとするあまり、梁を吊ったクレーンの下に入りたがったりするなど、目を離すと何をするかわからない状態。「正直、危ない存在でしたね」とCさんは苦笑する・・・
この記事は新建ハウジング9月20日号6面(2023年9月20日発行)に掲載しています。
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