木造軸組プレカット加工を主要事業としていたイタヤ(新潟県)が6月23日、征矢野建材(長野県)が8月6日、民事再生法の適用を申請した。2社の負債合計は100億円を超える。プレカット事業所向けを主力とする構造材等製造販売会社はプレカット向け与信が今後、一層収縮していくことを危惧する。
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問題は新設木造住宅需要の低迷、特に木造軸組持家の慢性的な需要減退でプレカット加工の需給バランス緩和し、激しい受注競争が起きていることだ。こうした需給変調はプレカット産業だけの問題ではなく、プレカット工場向けに構造材、羽柄材、構造用合板等を供給する製材・集成材産業、これらを流通させる木材製品販社にも降りかかっている。既に工務店をはじめとした建設業の経営破綻が多発している。
需要不振に伴い、木材製品市況も多くの品目で価格高騰以前に近い水準に下げ込んでいる。特に杉KD特等3m長×105mm角、いわゆる無垢管柱の関東地区価格は安値5万5000円(市売、㎥)前後まで下落した。競合する杉集成管柱3m長×105mm角が先行して複数大手で同値水準まで値下げしたことがきっかけとみられるが、内外産ホワイトウッド集成管柱既製品価格も続落しており、限られた需要のパイを取り合う展開が激化している。
木材価格高騰で見えなくなった現実
2021~22年に起きた歴史的な木材製品価格高騰、いわゆるウッドショックは木造軸組プレカット事業者の業績を著しく押し上げた。売上高、収益ともに過去最高となったところも少なくない。
首都圏市場を主力とする軸組・2×4大手プレカット会社はグループ全体で2022年度売上高が前年同期比70%弱増加、営業利益は2.2倍近くとなった。1棟当たりの材工売上高は300万円を上回り60%弱の増加となった。構造材等の木材製品原価も大幅に上昇したが、それを上回る販売価格となり、記録的な増収増益を計上した。すべての木造軸組プレカット会社が同様とは言えないが、多くが過去最高業績を計上したとみられる。
それからわずか1年余、木材製品価格高騰が終焉し、高騰前水準まで続落する品目も出始めるなかで、有力プレカット会社が相次いで経営破綻したのはなぜか。
主因は新設住宅をはじめとした建築材実需が木材製品価格高騰前から既に鈍化していたことに尽きる。実際、木材製品価格高騰前、2020年前半の価格は建築材需要低迷により大方が安値圏にとどまっていた。
しかしながら新型コロナ感染症問題による世界的な製造・流通の混乱と原材料費や人件費をはじめとした全般のコスト高、さらに先高を織り込んだ強烈な仮需が相乗した木材製品価格高騰で、決して良くない実需状況が一時的に見えなくなった。原材料不足によるプレカット工場の受注制限や構造材、羽柄材、構造用合板等の一時的な入手難といった混乱にかき消されて実需が傷んでいることを忘れてしまったといえる。
ここへきて木材製品価格高騰が終焉し、原材料入手難から解放されたわけだが、改めて実需の冷え込みに直面している事実を思い知らされている。上記の経営破綻した2社は事実上の債務超過状態にあったといわれるが、木材製品価格高騰で資金繰り悪化問題も先送りされてしまった。
問題先送りで詰んだ状況が様々に表面化している。例えば新型コロナ感染症問題を背景としたゼロゼロ融資。今夏から元本返還が本格化しているが、新設住宅建築を主力とする工務店はコロナ前から厳しい経営状況にあった。新型コロナに伴う公的支援等で一時しのぎされたにすぎず、コロナ後の建築需要環境は一段と悪化し、ゼロゼロ融資返済と相まって資金繰りはさらに厳しい状況に陥っている。
工務店をはじめとした建設業の倒産が急増している。経営者の高齢化や後継者難、職人等の人手不足、建築資材等の調達価格上昇に伴う収益圧迫なども経営破綻原因だが、最も深刻な問題は需要、すなわち新設住宅受注の伸び悩みだ。
新床面積が2019年比25%強の減少
木造軸組プレカット産業の主力需要分野である新設在来木造住宅着工動向は、2023年1~7月累計が20万1950戸(前年同期比5.8%減)。小幅減のようにみえるが、2016年以降で比較するとピークの2019年1~7月23万2460戸から13.1%減となっている。新設在来木造住宅床面積は2023年1~7月が1953万㎡、前年同期比8.6%減で、1戸あたり床面積が狭小化していることがわかる。2019年1~7月(2366万㎡)比では17.5%減だ。
このうち新設在来木造持家着工戸数に絞ると、2023年1~7月は9万5681戸で同10.7%減、床面積は1082万㎡で同11.8%減だ。2016年以降ではピークの19年1~7月(12万3468戸)比22.5%減。床面積は19年1~7月(1456万㎡)比25.7%もの減少となっている。
大都市部と地方部での格差も広がっている。例えば東北の23年1~7月新設在来木造住宅床面積は94万㎡弱、直近ピークの16年同期比で43.0%減、北陸は同77万㎡で直近ピークの19年同期比32.6%減と全国平均を大きく上回る減少率となっている。
新設木造住宅需要は2×4、木質プレハブ工法等があり、在来木造についても貸家、分譲等がある。新設在来木造持家のみを取り上げて云々すべきではないが、在来木造戸数の47.4%(23年1~7月)を占める持家の苦戦は痛手だ。ちなみに直近で在来木造持家戸数が最も多かった2013年(13万2074戸)の持家比率は60%強あり、この10年余で在来木造持家シェアが急落していることがわかる。
地場工務店・ビルダーが主力需要分野としている新設在来木造住宅、特に持家市場は2021~22年の木材製品価格高騰以前から既にかなり悪い状況が起きていたにもかかわらず、木材製品価格高騰の混乱で一時的に見えなくなっていたにすぎない。この間も実需の減退が進行し木材市況混乱終焉後、改めてその低迷ぶりが浮き彫りになっている。
パワービルダー系が多くを占める在来木造分譲住宅が比較的健闘していることから在来木造全体の落ち込みは小幅にとどまっているが、木造戸建て分譲住宅も地価、資材費、労務費等の上昇で住宅販売価格大幅に上昇が影響し、徐々に売れ行きが鈍化している。
複数のパワービルダー大手で建築済み分譲住宅在庫増と回転率の低下から需給調整に入っており、今後の動向が注目される。また、大手住宅会社も総じて戸建て注文住宅の受注伸び悩みが顕著だ。
三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部による2023年度上期デベロッパー調査によると、新設戸建て住宅に対するデベロッパー側の懸念材料で最も多くを占めたのが「消費者の購入意欲低下」となっており、新設戸建て住宅価格の大幅上昇で潜在的住宅取得者層が許容可能な住宅価格をはるかに超え、取得を躊躇し始めていることがうかがわれる。
飽和状態の軸組プレカット
木造軸組プレカット各社の受注状況は当然ながら鈍化している。受注減に連動してプレカット加工賃も弱含んでいる。一部大手で受注制限が行われていた木材製品市況混乱時とは雲泥の差と言える。
一般的な装置産業と異なり木造軸組プレカットの加工能力は一定しておらず、あまり意味のない数値ではある。受注が低下すれば減産で対応するからだ。また、実際のプレカット生産高合計も推定でしかない。林野庁の2018年白書はプレカット比率を93%と紹介(出処:日本木造住宅機械プレカット協会)している。ただ、この数値の基礎となる全国の木造軸組プレカット生産実数は誰も集計しておらず、きわめてあいまいな推定値と考えられる。
1990年以前の木造軸組プレカット比率は推定10%以下、構造材等の加工主体は手刻みであった。そこから油圧等の半自動プレカット、さらに全自動機械プレカットへと移行し、以後30年間で90%台まで上昇した。現在、ほぼすべての在来木造住宅はプレカット事業者の手を経て最終加工された構造材、羽柄材、構造用合板等として現場納材されている。全工場のプレカット生産最大値を単純に合算すれば現状の在来木造住宅需要規模を大きく上回る数量となろう。
1990年代後半以降、機械プレカット設備投資は極めて精力的となる。プレカット産業の急拡大を支えてきたのがバブル崩壊後に登場した在来木造建売住宅を主力とするパワービルダー、そして構造材寸法精度と品質を支える構造用集成材の存在だ(次回レポートで詳報)。
1990年代半ばから現在までの過程は木造軸組住宅需要を手刻みから機械プレカット置き換える過程そのものであった。同時に1990年代以前は住宅品質問題に苦しんだ在来木造建売住宅産業が劇的に生まれ変わることを可能としたのが高精度の機械プレカットと構造用集成材であった。
日本木造住宅機械プレカット協会の2006年度プレカット生産高調査は推定3870万㎡(能力は横架構造材生産坪数に基づく)となっている。月平均323万㎡だ。一方、23年1~7月在来木造住宅床面積月平均は280万㎡、さらに在来木造持家床面積となると23年1~7月の月平均は155万㎡にすぎない。
既に飽和点に達している。現状の実需減退に対してはプレカット受注競争を激化させる一方、それが困難な事業所はシフトや稼働時間の削減といった減産を余儀なくされている。しかしながらうまく生産調整しないと販管費等の固定比率上昇を招くことになる。また、設備償却費に加え、原油高騰を背景としたエネルギーコストの急上昇はプレカット工場の収益を直撃している。
実需の減少はプレカット生産高の減少に直結する。典型的な受注産業であるプレカット各社は稼働率を高めるため躍起になって受注を獲得に出ているが、受注競争は否応なしに価格を押し下げる。2021~22年の木材製品価格高騰という思いもよらない出来事以前、木造軸組プレカット関係者と話すと、「機械プレカット収益は通常稼働(1シフト8時間など)から、どのくらい残業できるかで決まる」と指摘された。機械化・省人化された設備の稼働率をいかに高めていくかが収益を左右する。
プレカットへの期待は大きい
新設在来木造住宅部材加工という点では機械プレカット産業は明らかに飽和段階にあり、今後、さらに新設住宅需要が減退するとなれば最終的なプレカット需給調整は小手先の減産で収まらないと考えられる。ただ、プレカットには多くの可能性があるのも事実だ。実需情報である設計資料を得られる点を活かせば新たな建築資材流通に事業領域を広げることができる。
設計支援も伏図制作にとどまらず、構造設計領域に広げていく好機が到来している。非住宅木造建築はもとより、2025年問題ともいわれる建築法制度、省エネ法制度の改正でプレカットの工務店支援に関する役割は確実に高まってくる。非住宅木造建築では大断面構造材加工機、CLT加工機などの新たな加工設備投資を進める動きが進んでいる。ただ、これも設備投資できる事業者とそうでないところとの格差が急速に開いている。
また、断熱材や開口部材を組み込んだ壁・床・屋根等の木造軸組住宅フルパネル化に踏み込む事業者が増えてきた。ただ、ここでも事業者間格差が広がっている。こうした新たな動きも後述したい。
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