建設工事のマッチングプラットフォームを運営するクラフトバンク(東京都中央区、韓英志社長)が、SaaS市場に本格参入することが分かった。まもなく工事会社に特化した経営管理システム「クラフトバンクオフィス」を正式リリースする。これまで紙やExcelで行うことが多かったスケジュール管理や写真管理、事務処理などを、スマホやパソコンなどを使って利用できるシステムを開発。現場外での業務の多くを自動化することで、経営者・職人・事務員が自らの業務に集中できる環境を整えることが可能となる。
独自で構築した信用情報によるマッチングシステムで建設業界における人材の「不」を解消してきたクラフトバンクが、次に見据えるのが、工事会社における経営課題の抜本的解決だ。事業経営に関わる全ての関係者を一気通貫で後方支援するシステムが生まれた。
「クラフトバンクオフィス」(以下、オフィス)は、戸建て、集合住宅、非住宅、土木などで工事に携わる企業に特化したサービスとして展開する。同社によると、正式リリース前のベータ版の段階で3000人以上の職人が利用中。7月における見積書の発行総額は約40億円、工事案件ベースでは1万件を超えたという。
同オフィスを利用することで、業務時間の短縮など生産性向上が実現するのが特徴。現場の高齢化が進み、「デジタルは苦手」という職人も多い中、同システムの基本的な機能については、平均で月間20日以上利用されていることから、その使い勝手の良さが伺える。
経営者向けの機能・支援も充実
同オフィスは、監督・職人向けの機能として、スケジュール管理、日報、勤怠、写真管理、案件確認、経費申請などの機能を搭載。1日に何度も行わなければならない報告・連絡・相談など、日常的に行われる連絡事項もスマホ上ですべて完結できる。そのため、現場の状況や明日の予定を見るために帰社する必要がなくなる。
工程管理表は現場と個人の予定が見やすく表示でき、ドラッグ&ドロップで簡単に変更や通知が行える。現場で撮影した写真もスマホ上で確認することが可能。日報は複数の書式で作成ができ、入力された情報の自動集計も可能となっている。
経営者・営業向けには、経営レポート機能を搭載。現場の人工経費や請求・入金をリアルタイムに確認できるだけでなく、売上原価や現場別粗利の集計などを自動でグラフ化することで、「経営の見える化」が図れる。元請への報告書などの必要書類も自動で作成できる。
事務員向けの機能では、現在使用している帳票・管理表(Excelなど)をそのまま再現してフォーマットを作成。使い慣れたレイアウトのため、新しいツールへの移行が抵抗なく行える。
「デジタルが苦手」だという年配の監督や職人も、家族や知人などとの連絡にはLINEを使っていることが多い。そこで同オフィスではLINEと連携。
管理者が工程や案件情報、職人の予定をスケジュールに入力すると、職人や協力企業などに工程確認、日報・勤怠入力のリマインド通知が自動的に送られる仕組みを導入した。その通知に答えるだけで、漏らすことなく情報の確認や日報・勤怠の入力が行える。
使用方法については、導入前に同社スタッフが対面で説明。これまで紙で作成していた書類は、同じフォーマットのままデジタル化し、入力方法をいちから説明する。「DX対応の進め方自体が分からない」という企業に対しては、同社スタッフが毎月訪問し、段階を追って丁寧にサポートする。
経営レポートなどの「見える化」された経営資料の見方や疑問点、経営の困りごとなども、LINEや電話で即時対応する。
職人が正当に評価される世界に
同オフィスを展開した背景として、建設業界で「2024年問題」による時間外労働の制限開始が迫っていること、このために人材確保と業務効率化が企業に求められていることが挙げられる。
《注目記事》【close-up】迫る「2024年問題」御社は本当に残業を減らせるのか?
大手企業や元請企業などではDX導入などによる業務効率化が進んでいるが、中小工事事業者の多くはまだ手書きの日報を使っていたり、原価管理ツールが未導入であるなど、紙ベースの作業が主流となっている。
同社が社内に設置している研究機関「クラフトバンク総研」の調査によると、社員数5~100人の中小工事事業者の57%は日報を手書きしており、原価管理ツールや施工管理ツールを導入していない企業が8割にも上ることが明らかになっている。
さらに中小事業者の特長として、経営者の79%が自ら「見積作成」や「手配業務」「原価集計業務」といった事務作業をしていることも調査で分かった。これらの事務作業は、同オフィスを活用することで、効率化・自動化が可能となっている。
土木一式・解体工事を行う小野建設(秋田県雄勝郡)では、同オフィスを導入するまで、工事日報や勤務表など、膨大な帳票を手書きやエクセルで入力し、同じ項目を何度も書かなければならなかったという。
職長は毎日現場から戻った後も、1時間以上掛けて事務作業を行っていた。しかし、同オフィス導入後は、工事日報を入力するだけで、実行予算書、業者別原価管理表、勤務表の作成は自動化できるようになったため、入力に掛かる時間は10分に短縮。職長の1日あたりの残業時間が55分も削減されるという成果を上げた。
同社社長の韓英志さんは「積算や施工管理といった元請企業のDXがフォーカスされがちだが、実は生産性の向上において最もボトルネックになっているのが工事会社だ。少ない人的のリソースで、原価管理、出面管理、給与計算、経費精算、請求書、施工写真など業務は多岐にわたる。こうした業務課題をDXの力によって解決することで、職人や工事会社が1日でも早く適正な働き方でより稼げる世界をつくっていく」と語った。
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