エレベーターが止まったタワーマンション。食べ物や携帯トイレが入手できなくなった住人が避難所に殺到する―。東京都が2022年に公表した首都直下地震後に想定される光景だ。9月1日で関東大震災から100年。様変わりした都市で、急増するタワマンの住人が「孤立」する恐れが指摘される中、住人らは自分を守り地域を生かすための対策を始めた。
東京都中央区にある39階建てマンション「リガーレ日本橋人形町」。長屋が立ち並ぶ場所を再開発して建てられ、分譲・賃貸用の住居計335戸と飲食店などが入居する。
「部屋の中で何日間暮らせるか」。団地管理組合理事長の鈴木健一さん(63)は淡々と話す。避難所の受け入れ人数は限りがあり、タワマンなど耐震性に優れた住宅では原則、「在宅避難」が求められているからだ。
リガーレでも復旧まで電気は6日、水道は30日かかり、エレベーターが動かないと想定し、「自分たちでやらないと意味がない」と独自のマニュアルを作成して災害に備えている。
災害時は居住階などで住人をグループ分けし、各グループで安否確認や救護活動などを行う。全住人が3、4日間暮らすのに必要な飲料水や食べ物、おむつなどを保管先の1階倉庫から、各グループの物資班がリレー方式で上層階へ運び、各戸に分配する。また、移動が難しい高齢者らには身を寄せられる場所をリガーレ内に用意する。
マンションごとに自治会を結成する場合もあるが、リガーレはあえてつくらず町会に加入する道を選んだ。「マンションが町に入っていくものだから」と鈴木さん。町会との関係性は防災にも生き、協力して炊き出しを行うことや、近くの避難所から支援物資を運ぶことを決め、無理に避難所へ行く必要はない状況を目指している。約100人が入れるリガーレ内のコミュニティールームは、帰宅困難者らにも開放し、防災拠点として地域に貢献する。
東京大の廣井悠教授(都市防災)は、耐震性や耐火性などハード面で災害に強いタワマンは、避難訓練などのソフト面が後手になるケースがあると指摘する。同教授は、地震の揺れで防火設備や消火設備が故障し火災が広がる可能性など「タワマンにもリスクがある」とし、「リスクを知った上で、皆で災害について考えたり、場合によっては町と連携したりすることは重要だ」と話している。
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