初回の連載では、限られたリソースで持続可能な工務店経営を行っていくためのエクセレントチームの体制について触れた。
連載2回目の今回は、実際にエクセレントチームで稼働した実例を紹介。より具体的に、どのようなチームをつくっておくと地域工務店の課題解決に近づけるのかについて、お伝えしていきたい。
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クリエイターと協働にして空間と住まい手の心をデザイン
中古物件の買取再販をメインに手がける新潟県の「まごころ本舗」。
彼らが売り出す新潟市北区の浦木の土地分譲地を宣伝するための同敷地内にあるモデルハウス見学会を兼ねたイベントのプロデュースを4月に実施した。
まごころ本舗さんの過去の集客手法は紙媒体や不動産ポータルサイトがメインとなっており、新しいプロジェクトの企画/実行に社内リソースだけは難しいという課題があり、弊社に相談をいただいた。
そもそも見学会とひとくちに言っても、ただ集客するだけ、ましてや押し付けるだけでは意味がない。物件を知ってもらうためのイベントは、空間と住まい手の心をデザインして、くらしの提案をするものでなくてはならないと考えている。
私が地域工務店で勤務していた時に「押し付け」イベントを打ってしまい苦い経験をしたこともある。会社の目的の「早く売りたい!」が先行してしまうと良い企画になりにくい。
どの地域工務店も技術が上がって、ある程度一定水準の家を提供できる。だからこそ「いい家」であるだけでは、選んでいただくことはできない。「その家で、どんな暮らしができるのか」「どんな気持ちになれるのか」そんな世界観を提案し、お伝えしていくことがこれからの地域工務店の使命であり、本企画の目的だ。
以下は、浦木の分譲地の特徴である
・自然に囲まれている
・キャンプのようなアクティブな活動ができるスペースがある
・テラスでお茶したり、ご飯を食べられる
・思い思いに、ゆったりとした時間を過ごせる
これらをお伝えできるように、焚き火でマシュマロを焼いたり、植樹に参加できるような企画を用意。また、広い庭でコーヒーやお弁当を召し上がっていただけるように準備していくことに。
しかし、このような企画や準備は地域工務店の通常業務の領域を超えている。そこで、7人のフリーランス/クリエイターの方を巻き込み、まごころ本舗の社員とお繋ぎして、準備を進めていった。人員配置はこのような形だ。全員、新潟市民でのキャスティング。
・WEBディレクター(主にランディングページ制作のディレクション)
・住宅ライター(ランディングページ、フライヤーのテキスト執筆)
・インスタ広報(SNSなどでの宣伝)
・イラストレーター(イメージイラストの作成)
・デザイナー(ランディングページ/広告チラシ作成)
・カメラマン(当日の記録・イベント以降もSNSで使える素材制作)
・マジシャン(イベントの盛り上げ)
「多くの仲間をまきこんだほうが、イベント成功する」説
地域工務店では「まずは自分たちで業務を完結させるべき」という考え方が基本となっている。しかし、その考え方では、これからの時代に通用する新しい業務を展開させていくのは難しいと感じている。
20代の若手社員のほとんどが、社外の人材と関わる機会が初めてだった。無事に当日を終えて反省点などを話し合っていると、「社内のメンバーだけで計画していたら、出てこないアイデアばかりだった」「いい刺激になった」「携わることができて、満足感がある」「モチベーションが上がった」との前向きな声を聞くことができた。
人材を積極的に取り込むエクセレントチーム体制は、自社のリソースが増えるおかげで出来ることが増えるだけでなく、働き手のスキルアップや可能性を広げることができるというwin-winなメリットを持っている。
人数が多ければ多いほど、多様で柔軟なアイデアが出てくる。それだけでなく、形にする物理的な人力も増える。
つまり「多くの仲間をまきこんだほうが、イベント成功する」確率はグンとあがる。
反省会では、「通常の営業・設計業務をやりながらだと、このクオリティの企画を形にするのは難しい」という意見も多数見られた。たしかに、少数精鋭の地域工務店では、リソースをさくのが難しいのも分かる。しかし先述のとおり、地域工務店が心を込めて建設した「いい家」を住まい手に届けるためのアクションが、生き残っていくために必須なのは間違いない。
スキルとアイデアを、環境と経験でお返し出来る良い関係性に
日本のフリーランスの数は年々増加している。とくに地方では、はっきりとした体感がある。場所を選ばず働くことが出来る、ノマドワーカーの勤務形態が広まりつつあるからだろう。
とはいえ、人材はなにも「完全にフリーランス」である必要はない。
勤務形態はフリーランスを含め、大きく4つに分けられる。
・スキマワーカー(副業)
・パラレルワーカー(兼業)
・本業として勤務するワーカー(フリーランス・自営業)
・自立、独立オーナー(法人)
それぞれの稼働時間や業務領域は、人によって異なる。スポット的に参画してもらうも良し。案件の初めから終わりまで併走してもらうも良し。
自社の要望と、彼らのなりたい姿をすり合わせて、マッチする人材とともに業務を広げていけるのが理想だ。
これからの日本では、人材不足により従来のジョブ型雇用が難しくなる。そうなると、現状足りない能力を補い合うプロジェクト型のワークスタイルが主流になっていくのは間違いない。
社内にない力やリソースは、無理やり社内でまかなうのではなく、新しい風を引き込んで生み出す。コミュニケーションや、請求処理などの作業はこれまでの業務にプラスされるが、その分自社にもたらされるメリットの方が格段に大きいと筆者は感じている。苦手意識がもしあるのならば、未来への投資だと考えてみるといい。
大企業の場合は、そもそも人材が捻出できたり、高額のコンサルタントを発注することも出来る。
地域工務店ではそうはいかない。しかし、資本がなくとも知恵と工夫で、新しい人材を引き込み、自社にない能力を補うことはできる。
副業人材やフリーランスの出来ることを見極め、選球眼を持って向き合ってみよう。
大事なのは、ともに共創する意識を持つことだ。「外注」という言葉がしばしば使われるが、筆者はその呼び名は使わない。一緒に内部のプロジェクトに取り組んでいるのに、外部と区分けするのはいささかズレているように思える。この立ち位置のズレが、コミュニケーションに隔たりを生んでしまう可能性は大いにある。仲間として、意識的に使わないようにしていきたい。
第3回目では、「まごころ本舗」以外にも、エクセレントチーム体制で可能性が広がった事例を紹介していく。
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