文化庁はこのほど、2023年3月から3回にわたって実施した「建築文化に関する検討会議」の報告書を公表した。この中で、建築文化を振興するための新たな法律や制度の整備を検討すべきだと述べている。
同会議は日本の建築文化、とりわけ近現代建築文化をどのようにして振興するかについて検討するもの。昨今、老朽化などを理由に、銀座の「中銀カプセルタワービル」をはじめとした近現代の名建築の取り壊しが増える中、単に取り壊して建て直すのではなく、「維持・保存」「創造的再生・活用」「新築の好バランス」を考えながら、新築されることが求められている。
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こうした背景を踏まえ、同会議では日本の建築に関する扱いのあり方について、法整備を含めたさまざまな検討を行った。委員会メンバーは、建築家の隈研吾氏、俳優の鈴木京香氏、大成建設のシニア・アーキテクト堀川斉之氏らを含む有識者10人。
「我が国の建築文化への共通理解作りと具体的行動に向けて」と題した報告書では、まず日本の建築文化をめぐる課題について説明。日本では木材がふんだんに取れるという地理的条件に恵まれていたことと、取り壊しが比較的容易という理由から、木造建築物をショートスパン(1周30~50年)で建て替える文化が根付いている。その考えが現代にも引き継がれているのだという。
例えば、建築家によって建てられた優れた作品が、地域活性化の起爆剤になるとの考えから、新しいものへと建て替えられてきた。耐震補強を含む大規模な修繕についても取り壊して新築した方が、手間などがかからないといった理由から、支援策に差を設ける例も少なくない。これが日本におけるショートスパンでの建築物のライフサイクルを容認し、加速化させる要因ともなってきた。
名建築の税制優遇も検討
そこで“身の回りの貴重なストック”が失われる危機を克服するため、建築文化の振興に向けた方策を検討。既存の建築・景観に対するアクションとして、「優れた近現代建築」と「地域の特色ある景観」に分けてリスト化し、それぞれ効果的な制度を策定することを提案した。取り壊さざるを得なかった場合についても、部材の再利用などにより未来への継承を試みる。
また建築・景観の継承と創造に関わる専門家として「建築文化マネージャー(仮称)」を創設。プロジェクトを主導する人材の育成や地方行政への派遣・配置を検討すべきだとした。建築物の取引・継承を円滑に進めるための資金調達の方法や情報提供支援策なども検討する。
名建築を継承するための税制面の方策も検討課題とした。相続による継承、固定的な資産としての保有・維持管理を支援するため、資金的流入が進むような促進策が求められる。
現在、「建築文化」に係る資料のアーカイブ機関となっている国立近現代建築資料館の活用も図る。有名建築家による建築模型や、大学研究室などに眠る過去の建築模型を収集するなどして、アーカイブの幅や手法を広げる。加えて日常の維持・継承、修復などの人材のとりまとめ、関連人材の交流機能を確立する
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