建築家アントニン・レーモンドによる歴史的建築物として知られる「不二家・横浜センター店」(築86年)が、8月20日に老朽化による建替えのため閉店する。解体後、「新不二家横浜センタービル(仮称)」としてリニューアルされる。新ビルの詳細や建替えスケジュールなどは未定。
「不二家・横浜センター店」は、1922年に「不二家・伊勢佐木町店」2号店として開業。1923年9月1日に関東大震災により店舗を焼失し、バラック建てで営業を再開した。この時、横浜市元町にあった1号店は閉店している。1937年2月、日本に滞在していたレーモンドの設計により、現在の場所に伊勢佐木町店として再オープンした。
第2次世界大戦中の戦火を免れた同店は、占領した米軍に接収され、日本初の隊員クラブ(娯楽施設)「ヨコハマクラブ」として使用された。返還後は不二家の店舗として営業を再開。不二家で最も歴史のある店舗として現在まで営業を続けた。しかし、耐震性能などの問題もあり、惜しまれつつも今回取り壊すこととなった。
140超の住宅を設計したレーモンド
「不二家・横浜センター店」を設計したアントニン・レーモンド(1888年5月10日~1976年10月25日)は、チェコ出身の建築家。1910年にプラーグ工科大学(現チェコ工科大学)を卒業後、アメリカに渡って市民権を取得。近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの事務所に入所する。1919年に旧帝国ホテル(東京都千代田区)の設計のため、ライトの助手として共に来日。日本の伝統的建築物を見たレーモンドは「世界中で一番美しい国に来た」と思ったという。
その後も日本で滞在を続け、「レーモンド・スタイル」と呼ばれる木造モダニズム建築をはじめとした作品を次々と生み出した。日本モダニズム建築を代表する前川國男、吉村順三などもレーモンドの下で学んでいる。戦時中は一旦アメリカに帰国したが、1947年に再び来日。1973年に帰国するまでの間、まるで焼け野原となった日本に詫びるかのように住宅や教会、礼拝堂の設計に携わった。設計した住宅は戦前のものも含めて140を超える。
代表的な作品は、▽レーモンド自邸(東京都港区)▽カニンガム邸(東京都港区)▽イタリア大使館山荘(栃木県日光市)▽東京ゴルフ倶楽部(埼玉県朝霞市)▽東京女子大学礼拝堂・講堂(東京都杉並区)▽聖アンセルモ目黒教会(東京都目黒区)▽新発田カトリック教会(新潟県新発田市)▽軽井沢の第2スタジオ(長野県北佐久郡)▽リーダーズダイジェスト東京支社(東京都千代田区)など。
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