2年後の2025年4月に開幕予定の大阪・ 関西万博。ここに来て海外パビリオンの工事の遅れが目立っている。こうした状況に危機感を抱いた経済産業省は、国土交通省不動産・建設経済局長などに宛てて、要請書を送付している。その中には、「参加国が自ら建設する海外パビリオンで、国内施工事業者との契約が進んでいない」「参加国のパビリオン建設が開幕までに間に合わない場合には、大阪・関西万博が国際博覧会として成立しなくなることが危惧される」と記されており、切羽詰まった様子がうかがえる。
今回、建設の遅れが指摘された「タイプA」(敷地渡し方式)のパビリオンは、万博側が参加者(国)に敷地を渡し、自由に形状やデザインを構成するもの。約50カ国がこの「タイプA」で建てる意思を示している。他に、万博側がパビリオンを建設・提供し、外装や内装だけを参加者が自由にデザインする「タイプB」(建物渡し方式)、複数の参加者が共同で使用する「タイプC」(共同館方式)を用意した。
当初の計画では、2022年度末までに土地の埋立て・造成や浸水対策、「日本館」をはじめとしたパビリオンの設計などを終え、2023年4月1日から建設工事に入る予定だった。
ハードルだらけの建設工事
契約が遅れているのは、海外のパビリオンだけではない。日本のメイン会場やパビリオンでも、若手建築家を対象とした設計業務や、提案公募によるプロモーション業務など、華々しいポジションは次々と決まっていったが、建設工事については不落・不調が続いた。入札方法を「一括発注方式」の一般競争入札から「入札後資格確認型」に変えて、ようやく落札者が決まった案件もあった。
海外パビリオンの契約・建設が遅れている背景について、経済産業省は▽参加国側による準備の遅れ▽人材不足▽資材の高騰▽設備工事業者・専門工事業者の確保の難しさ▽国内建設市場の需給ひっ迫▽入札情報・追加費用などの情報不足―などを要因として挙げた。西村経済産業大臣も、7月28日に開かれた記者会見の中で、ドバイ万博の開催が1年後ろ倒しになったこと、中小施工事業者が外国の発注主体と折衝することが困難であることなどが要因だと話している。
各国の契約情報・入札情報は、万博協会のホームページ「公式参加者パビリオンの契約情報」に掲載されている。基本的には参加国の母国語で契約内容が書かれているため、入札する側にとって高いハードルとなっているのは確かだ。一括発注方式であることに加えて、設計・施工別のガイドラインにより設計・環境配慮、暑さ対策、施工・解体の要領、提出書類(BIMデータを含む)などが細かく定められている。こうなると入札に参加できる事業者も限られてくる。
残業規制除外を協会が要請?
こうした中、「万博協会(日本国際博覧会協会)が、時間外労働規制の対象外とするよう政府に要望した」との話題が、ある報道を機に広まった。現実として、万博の計画段階から「人材不足で人が回せない」「時間外労働規制が始まればとても対応できない」と、事業者の間でささやかれていた。吉村大阪府知事も記者会見の中で、「事業者側から万博協会に、時間外労働規制を外すべきだとの訴えがあったことは聞いている」と話している。
建設業における時間外労働規制は、2024年4月1日から適用される。最大でも年間720時間以内、休日労働を足した場合でも月100時間未満までと定められ、違反した場合には罰則が科される。ただし労基法第33条により、国民の生命を守るための災害復旧事業や、生活の再建に関わる復興事業に限っては規定から除外される。
同件については7月28日に開かれた記者会見で、西村経済産業大臣、加藤勝信厚生労働大臣ともに「万博協会からの要請はなかった」と否定。さらに加藤大臣は、「労働基準法第33条による上限規制の除外は災害などに限られている。働く人の健康確保の観点からも業務の繁忙によるものについては認めない」と断言した。
懸念払拭にあの手この手
経済産業省では、施工事業者による懸念事項への対応策について、次のような提案をしている。まず金銭的な懸念では、建設費に関する参加国と施工事業者との間に認識にギャップがあることから、政府の外交ルートなどを通じて、予算増加やデザインの簡素化によるコスト削減、工期短縮化を参加国に求める。確実な入金の不安に対しては、NEXI貿易保険の活用を推進する。
また、「原則バスによる通勤」と決められている工事事業者に対しては、乗車料金を公共バス並みに抑えて負担を軽減する。突貫工事となった場合の作業員の輸送については、バスの増便で対応する。現在、自家用車用の乗り入れは不可となっているが、今後駐車場の設置を検討する。詰所やトイレなどの共通仮設設備については協会側が負担する。
外国語への対応については、建設実務に精通した外国語対応可能な人材を確保し、PM(プロジェクトマネジメント業務)、CM(コンストラクションマネジメント業務)に対応するための窓口を設置する。
資材搬入ルートの確保はどうするのか
他にも、工事業者を悩ませている問題がある。資材の搬入ルートが限られていることだ。大規模な工事現場では、1日に何百台もの大型車が資材搬入のため出入りする。しかし、夢洲は埋立地であるため、工事現場に入るルートは地下トンネル(夢咲トンネル)と、橋梁(夢舞大橋)の2カ所に限られている。しかも周辺の道路は、物流拠点を行き来する運送トラックの輸送ルートにもなっており、渋滞を引き起こすわけにいかない。
作業員がバスで通勤するのも、自家用車が乗り入れ禁止になっているのも、周辺道路の混雑を避けるためだ。資材搬入などに必要な工事車両は「工事車両運行管理システム」によって入退場数やタイミングを制限している。しかしこの先、工期が集中して資材搬入の車が増加した場合、同システムでも管理しきれなくなるのは必至。建設への協力を求められても、工事業者が応えることができない事情がここにもある。
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