みなさま、こんにちは。2015年に創業し、「BIMで木造建築をひらく・つなぐ」というミッションを掲げて以来、建築の情報化を探求しております株式会社MAKEHOUSE(東京都品川区)代表の今吉義隆です。
この度新建ハウジングDIGITALで連載させていただくということで、木造建築/住宅業界においてどのようにBIMを使いこなしていけばよいかについて、これまでの8年間に得られた知見をどしどし公開していきたいとおもいます。暫くの間お付き合いよろしくお願いします。
結論、”つまりBIMって何ですか・・・?”と聞かれたら、私は「情報マネジメントのプロセスであり資産です」と即答します。「BIMとは一気通貫システムです」という回答は0点ですね。
私のスタンスを示したうえで、ます問題提起をさせていただきたいのですが、「BIM」ということに関して、あまりにも認識がばらばらで、色々な会議にでていても違う認識どうしの空中戦をしているだけのケースが多いと感じます。
例えが良くないかもしれませんが、「コロナウィルス」がどのようなものかわからないのに憶測でものを語って、それぞれ独自の対処方法を強要しあっている、そんな状況とBIMの置かれた状況が非常よく似ています。
ですので、連載第1回目は、基本のキに帰ってBIMの定義をみてみたいと思います。まずは、発売当初一斉を風靡し、今でも影響の強い「BIM建設革命」(日本実業出版/著者:山梨知彦)に書かれている「BIMとは何か?」から定義を引用してみましょう。
BIM(ビム)とは「ビルディング・インフォメーション・モデル」の略。紙媒体の設計図ではなく、コンピュータ上で3次元のビジュアルな設計図を作り、そこに使用建築材・製品・価格といった情報を盛り込むことにより、即座に積算までできるシステムである。さらに竣工後も情報を更新することにより、設計から解体まで、ビルのライフサイクルをとらえて効率的に管理・修繕ができる。
夢の一気通貫システム・・・ではなかった
国交省からでているBIMについての資料も同様の定義がされています。大雑把にいえばBIMソフトという夢の一気通貫システムを使えば、コスト削減や工期削減が可能になり、IT化によって新しいビジネスが立ち上がるだろうということです。
GAFAを筆頭とするIT企業が経済をぐいぐい牽引してく当時の様子からして、「海外では主流で日本がだいぶ遅れている、これはまずい!」「そんないいものあるんだったら使わない手はない!」と私もBIMの世界に足を突っ込んだわけです。
しかし、この「夢の一気通貫システム」というのが曲者で、何年もBIMソフトを利用してきてわかってきたことがありまして、それは、「建物情報を一つのソフトで入力し、設計も積算も生産も維持管理も一つのモデルから抽出していく」といった概念は“間違っているのではないか?”、もしくは建築の現場においてはデータ作成に手間がかかるだけで“ほとんど意味がないのではないか?”ということです。
一方、国際標準規格であるISO19650上でのBIMの定義はというと・・・
意思決定のための信頼できる基礎を形成する設計・建設及び運用プロセスを容易にするための建設資産の共有デジタル表現の利用。
となっています。ちょっとわかりにくいのでbsi(英国規格協会)から出ているBIM及びISOの解説本「BIMリトルブック2023年度版」からもう少し引用してみます。
BIMは、協働作業とデジタル技術に裏打ちされた情報マネジメントプロセスです。共有デジタル環境での資産の再現により、設計、建設、及び運用のプロセスを促進し、意思決定のための信頼性の高い基礎を形成します。また設計段階と建設段階での綿密な事前計画により、引き渡し段階で包括的な情報を提供することで、より高い効率性を実現します。
この2種類のBIMの定義の違いが、実は重要で、私なりに解説しますと、古いタイプのBIMの定義は「3D形状に属性情報をくっつけたもの」ということで、現在の国際標準規格では「情報マネジメントのプロセスであり資産だ」と言っているわけです。もう全然違う話をしているといってもいいと思います。
最初の方に述べた「違う認識どうしの空中戦」の話も基をたどればこのギャップに原因があって、BIM=夢の一気通貫システムということが前提にある2009年の話をBIMだと思っている層と、現実はそうじゃなくて、「一つのソフトにこだわらず、適材適所で情報をどうマネジメントして連携していくかで意思決定プロセス大事だよね」という層との認識のずれの話だったのです。
これを読んでいる皆様は、本日よりBIMとは?って聞かれたら、繰り返しになりますが、「情報マネジメントのプロセスであり資産だ」と返答するようにしていただければと思います。「BIMとは一気通貫システムです」という回答は表層的な部分しか捉えられていないと言っても過言ではありません。〈続く〉
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