建築デザイン領域のDX化を目指し、空間デザインプラットフォーム「TECTURE」を運営するtecture(東京都渋谷区)は7月12日、複数メーカーの建材サンプルをまとめて配送するサービスを開始した。「TECTURE」に登録されているメーカーを横断して建材のカットサンプルをまとめ、一括請求できるようにしたもの。これまで建材メーカーや販売店に個別に連絡してサンプルを請求する必要があったが、同サービスの利用により輸送を集約することが可能となった。設計者の手をわずらわせていたサンプル請求の負担が大幅に軽減される。
「TECTURE」は、住宅、宿泊施設、教育施設、商業施設・店舗、公共施設など、さまざまなプロジェクトの空間事例写真が約4万5000点登録されたデザインプラットフォーム。事例写真の設計を行った事務所名や施工会社などが分かるだけでなく、写真上のピンをタップ(選択)することで、建材・家具などプロダクトのメーカーや品番名、素材、仕上げ方法などが確認できる。メーカーの紙カタログと連動した「カタログビューワー機能」も搭載されている。
今回開始した「建材サンプル一括請求機能」を使ったサービスでは、これまで個別にサンプル依頼・受領していた複数社のサンプルをまとめて配送できるようになった。事例写真に直接ひも付いていない、他のプロダクトも同時に請求できるため、よりイメージに近いサンプルが収集できる。まとめて届けられることで、受領後に社内でプロジェクトごとに分別・保管する手間も省ける。会員登録・年会費・サンプル請求は無料。取り寄せるメーカー数に制限はなく、1メーカーにつき最大5枚まで注文できる。
同社では、「建材サンプル一括請求機能」サービスの追加に向けて倉庫業者・運送業者と契約し、東京近郊に物流拠点を設置。依頼のあったカットサンプルの仕分けから梱包までが自動で行える物流システムを整えた。これにより最短で翌営業日での配送を可能とした。
同サービスは利用者だけでなく、メーカーにとってもメリットがある。メーカーは「TECTURE」に登録する商品点数に応じた金額を支払う必要があるが、5万人以上の設計ユーザーが活用しているプラットフォームに自社製品を掲載できるため、広告よりも効果の高いアプローチが可能となる。
また商品情報を登録しておくことで設計者への認知拡大を図れ、新製品だけでなく旧製品のPRも行える。サンプル請求があれば連絡先などの情報が入手できるため“待つ営業”が可能。購入に至るまでのフォローアップはメーカーの判断で行える。配送作業についても「TECTURE」側で行うため、自社でサンプル送付するよりも手間が省け、人材配置にかかるコスト削減につながる。
各界のクリエイターが集結
tectureは2019年2月に設立。立ち上げにはSUPPOSE DESIGN OFFICE(広島県広島市、東京都渋谷区)の谷尻さん、編集者の佐渡島庸平さん、メディアクリエイター川田十夢さんが関わっている。
谷尻さんは自社スタッフが事例や建材・家具などの検索に多くの時間が奪われていることに疑問を抱き、その課題解決のために事例検索サービスを発案。当時、LINEで空間ブランディングのチームリーダーを務めていた山根脩平さん(現・代表取締役CEO)に協力を求めた。二人はSUPPOSE DESIGNがLINEのオフィス設計を手掛けたことを通じて出会っている。
山根さんは近畿大学理工学部建築学科卒業後、2008年隈研吾建築都市設計事務所に入社し、建築家として活動した経験を持つ。2015年からはLINEでBX室マネージャーに就任。世界3カ国13拠点のオフィスをデザイン・ブランディングし、LINEにおける空間ブランディングのチームリーダーとして成果を上げた。谷尻氏はクリエイターが本来集中すべき業務に集中できる「建築デザイン領域のDX化」と「空間デザインの未来」を実現するため、ITと建築の最先端を知り尽くしたこの逸材に新会社を託した。
tecture設立後は、“検索すればすぐに出てくる”システムの構築を目指し、空間デザイン事例、建材・家具の商品のデータベース化に着手。並行して空間デザインメディア「TECTURE MAG」を立ち上げた。コンテンツ制作は、建築分野に精通した編集チームが担当。独自の視点で企画・取材するレポート、インタビューなどのオリジナル特集記事、プロジェクト紹介、キュレーション記事、求人情報などを掲載している。
目指す、「圧倒的な効率化」
そして会社設立の翌年(2020年)の6月、満を持して次世代型検索サービス「TECTURE」を開始。先行して「TECTURE MAG」に搭載していた「プロダクト表示機能」を強化し、空間デザイン事例の検索、建材・家具の商品検索、メーカーへの問い合わせまでをワンストップに行うことができるサービスとして展開した。
その後も、▽プロダクトのみ検索できる機能▽社内の情報共有を可能とするオフィシャルアカウント、メーカーのカタログの該当ページを表示するビューア機能▽自社の空間デザインを投稿するプロジェクト投稿機能―を順次搭載している。
そして今回、「建材サンプル一括請求」サービスを開始。谷尻・山根の両氏が目指してきた「空間デザインの未来」が、いよいよ目の前まで見えてきた―。
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