ドイツでは、持ち家でも賃貸住宅でも、品質の差はほとんどなく、耐用年数も80年以上で、長期の資産として運用され、半数以上の世帯が賃貸という選択をしていることを連載で触れた。しかし、賃貸では一般的に、持ち家にある「自分の好きなだけ長く、好きなように改修して住む」という「自由」が制約される。
本稿では、賃貸でも持ち家にある「自由」を提供できる代表的なオルタナティブとして、協同組合形式の賃貸住宅について、そのコンセプトと意義、広がりを紹介したい。
ドイツの協同組合(Genossenschaft)は、古くは中世の頃から、近代的協同組合は19世紀半ばからあり、協同組合法(Genossenschaftsgesetz)によって定義された、一企業形態である。法人として、株式会社や有限会社と同様の運営責任が付与される。現在ドイツでは、金融から農林業、製造業、商業、サービス業、そして不動産業まで、多様な分野で8000以上の協同組合が経済活動を行っている。
他の法人形態と異なる協同組合の特徴の1つは、「自助」の精神のもと、組合の顧客、従業員、サプライヤーなどが、ステークホルダーとして組合のオーナー(組合員)になることを促進していることだ。賃貸住宅の協同組合では、賃借人は原則的に、組合員にならなければならない。月々家賃を支払う顧客であり、同時に、組合の総会に参加したり、住宅の運営業務の一部を請け負ったりすることもできる、組合の共同責任者の1人だ。
筆者が仕事上で付き合いがあるザクセン・アンハルト州マグデブルク市の「住宅建設協同組合オットー・フォン・ゲーリケ(Wohnungsbaugenossenschaft Otto von Guericke e.G.)」を事例に、その中身を具体的に紹介したい。旧東ドイツ時代を挟んで100年以上の伝統があるこの協同組合は、市内に約6200住居と44のオフィス・店舗を管理していて、組合員は約8400人、従業員は57人いる。
賃借人は出資金を支払い組合員になるが、この組合の出資金は1口40ユーロ(約6500円)と、非常に低い敷居が設定されている。利益配当は出資金の口数に応じたものになるが、総会での議決権は、出資額に関係なく、みな同等だ。これはすべての協同組合に通じる基本理念であり、「協同組合はもっとも民主的な企業形態」と言われる所以である。
マグデブルクのこの組合は・・・
この記事は新建ハウジング7月30日号7面(2023年7月30日発行)に掲載しています。
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