人生の話ができる人に家を頼みたい
三浦:私の会社は長野県にありますが、今、軽井沢では戸建て賃貸が不足しています。軽井沢にお試し移住する前に、一度賃貸に入りたいというニーズがあります。軽井沢にずっと住めるかどうかも分かりませんし、その前に戸建て賃貸に1年ぐらい住みたいというニーズはありますが、それを供給する会社が全くありません。
戸建て賃貸が足りなくなって、家賃相場がとても上がっています。それでも入居する人がいます。こういう話は地元の工務店は予期しておらず、消費者の方が先に進んでニーズが生まれているのです。けれども業界はついて行けていない。
今、軽井沢で受けている戸建て賃貸は洋装です。断熱性が高くて、デザインが良くて、土間がある。そこに相乗効果で需要創造ができています。今ある顕在化しかけているニーズにいいプロダクトが重なると、需要が一気に花開くように思います。
あとはその戸建て賃貸の「いい家」という定義が、「1円でも高く売れる」「1円でも高く稼ぐ」というものになる可能性はあります。これからインフレの時代ですので。デフレの時はそういった話をしても仕方がなかったかと思いますが、インフレ時代は「1円でも高く売れる・稼ぐ」がリスクヘッジも含めて、いい定義になりそうな気がします。
加賀爪:軽井沢のような街に「安いけれど一応、戸建てです」という家があっても求められているものとは少し違います。ニーズとマッチしていません。しかし、投資家側の観点では、木造2階建て100平米をいくらで建てるかといった話しかありませんでした。そうではないというのが、今回の話ですね。
谷尻:先ほどのマーケティングの話に戻りますが、家の話をして家を売るということではありません。その人の人生プランまで話ができる人に家を頼みたいとなるものです。私はスタッフに「比較優位性」というものを口うるさく言いますが、設計のデザインがいいというのは当たり前のことです。
しかし私たちは必ず何人か他にも候補を挙げられて、誰にしようかと考えた末に選ばれます。その時にデザインの話しかできない人と、お金の遣い方や事業の内容、資産運用の視点まで踏まえた会話をした上で、どのように建物を建てた方がいいかとアドバイスをする私たちとでは、選ばれる確率が違います。明らかに総合的判断ができる方が選ばれます。
そうやって比較優位性を獲得することが重要です。私は自分で家を建てたり、借入れをして別荘を作っています。ですから今、私個人の借金が4億円あります。自分の財布よりも明らかに超えた借金をしています。普通、4億も借金があれば愕然としてしまいます。しかし私はこんなに毎日笑顔で過ごしています(笑)
林:しかも、4億の借金があるにも関わらず、また次の物件を買おうとします(笑)
谷尻:もっと借りられないかなと(笑)
林:もう無理だと思うのですが、本人がそこに価値を見出しています。本人には価値が見えているのです。
谷尻:見えています。
林:それはすごいことだと思います。
加賀爪:谷尻さんは多角的にしっかり物事を見ておられます。鋭いことを言って、人に何かを気付かせるような、そんなイメージがあります。
谷尻:毎日、携帯を見ていたら分かる話です。ChatGPTが働いていることを考えたら、今後は人が働かない時代が来る。それにも関わらず「もっと働いて給料を上げるぞ」「出世するぞ」というのは、自分の労働に依存しています。
自分の労働を頑張るのは当たり前ですが、それ以外に何で頑張るかということまで考えておかないと、未来がなくなってしまいます。ほとんどの人がそうですが、歳を取れば取るほど所得は求めるのに働く量が減っていきます。そういった矛盾がある。望む所得を実現するには自分の労働に依存しない仕組みが必要です。どうやって自分以外が働いてくれるかということを意識した方がいいです。
加賀爪:金言ですね。私が最初に「yado」に抱いた印象は、「あの谷尻誠がフラッグショップになった」「新築フランチャイズを始めた」「おそらくミーハーな人たちは加盟しようになるだろう」でした。今日感じたのは、そのような浅はかな話ではなかったということです。林さんがあれだけ怒りながら話すのも、「これだけ話してもお前ら全然分かってへんやんか」というところがあるからですね。
林:ちなみにですが、わが社では谷尻誠は著名人枠です。ただ私は「谷尻誠が建築している」というのは、マーケティング的には弱いと思っています。
なぜなら谷尻誠個人以上の価値が出ないからです。うちのスタッフの子たちは「谷尻誠が書いている」と言いたくて仕方がないようですが、あえて「出すな」と言っています。谷尻のセンスで十分担保できているから名前は出すなと。
私と谷尻がこのタイミングでタッグを組んだのは、自分たちの富ではないからです。 なかなか変えられないこの状況の中で、どのような面白いことができるのか。面白いことに関わっている人たちが出てきてくださるのか。それがチャレンジの根底です。
加賀爪:ということは、マネタイズできなくても良いってことですね(笑)
林:いや、それはまずいです(笑)大きなお金やたくさんの人が動いて、ようやく市場は変わります。いずれマスコミは乗ってくるとは思います。軽井沢やニセコもそうですが、いろいろな地域の中で、行動しているエリアがあります。それを見て「なぜこうなったのか」「なぜ自分たちのエリアでは戸建ての価値が上がらないのか」…そういったことを比較するだけでも違ってきます。
今日の谷尻の話は建築家の話ではなくマーケティングの話です。それを理解して、勉強してもらって、自分の活動に生かしてもらえると絶対に変われるはずです。それは企業も同じことです。経営者はそれを経営戦略として、会社がスタンスとして言うべきです。マネタイズは社長の責任です。
加賀爪:私も週に2回、京都・東京間を往復しますので、移動をすると駅に居るだけでも世の中の大騒動が分かることがあります。
「自分たちが学んだことをシェアしたい」
建築スクール『CHANGER』始動
谷尻:私には自分が実際に体験して、今まさに実感していることを伝えたいっていう思いがあります。通常、必殺技を手に入れた時、人に教えたくない心情もあるかと思いますが、それをできるだけシェアするようにしています。
これから「yado」がやろうとしているのは8月から始める「CHANGER」という、建築のスクールのようなものです。マーケティングの話や投資の話などをします。お金の話をするとほとんどの人が「あいつは金に走った」と言いますが、私が話しているのはお金の仕組みの話です。単に金儲けをするのであれば、もっと賢く稼ぐ方法があります。
しかし「CHANGER」は、「yado」という建築を一つの軸足にしながら、その周辺にあること、その本質にあることを伝えていこうというスクールです。これを「yado」でやろうということ自体、分かりにくいかと思いますが。 今夜9時からこの内容説明をインスタライブで行いますので、ぜひ皆さん聞いてください。
決して私たちの話のすべてが正解というわけではありませんが、住宅を通して何ができるのかということ、私たちが考えていることを伝えて、皆さんが何か見つけるきっかけになればと思っています。
三浦:顧客の側でも、人生の経営をしているような感覚を持つ人が増えているように感じています。谷尻さんの話を聞いて、その経営をうまくするためのアドバイスまでもが、住宅会社の仕事になってきたように思いました。
1円でも高く売ったり貸したりするためには、人が欲しいとか住みたいとか、そこに行きたいと思えることが大前提となります。そうなるとデザインの力はまだまだあるように思いました。私も経営者ですが、リフォーム会社や工務店が自分でこれを建てて、自分で運用すればいいと思います。そうすれば安く作れるかも知れませんし、利回りも良くなるかも知れません。モデルハウスにもなるでしょう。そういう意味で、工務店の新しい収益化の方法としての可能性を感じます。
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