新築だけでなくリノベーションでも展開
加賀爪:「yado」は、別に新築オンリーではないですよね。
林:もちろんです。リノベーションもあります。 今やっている北海道のプロジェクトですが、とても良い温泉地の中にある元保養所をリノベーションして生まれ変わらせようとしています。年内にローンチできそうです。
加賀爪:「yado」はリリースされてまだ半年ですね。
林:半年です。
谷尻:インスタも始まって間もないですが、半年で9000人のフォロワーがいます。
林:これはオーガニックの数値です。半年でほぼ1万です。広告はやっていません。これは“やばく”ないですか。
谷尻:“やばい”ですよ。ただ、ここに来ている人は「yado」のことを知らなかったようですが(笑)
加賀爪:今、9200人ですね。
林:私の「LIFE LABEL」や「Dolive」には8~9万ぐらいフォロワーがいますが、それよりもオーガニックで、しかも今の進めづらいインスタグラムの中でこれはすごいことです。ここからはもちろん広告を使って増やして行きますが、3年後を見ていてほしいです。
加賀爪:「yado」はフランチャイズですか。
林:サービス的にはフランチャイズです。エリアも存在します。
加賀爪:工務店やリフォーム会社からの反応はどうですか。違うプレイヤーもあるかも知れませんが。
林:反応はあります。私はもう13年ぐらいフランチャイズをやっていますが、今回はこれまで自分たちが見ていなかった市場の方が手を挙げてくださっています。 先ほどの話に出た北海道のリノベーション物件は木材会社の経営です。その周りにおられる工務店のために先に手を挙げてくださったのです。いい物件を作って、工務店の周辺が盛り上がればいいなという話でした。とてもいいモデルです。
加賀爪:普段はあまり触れ合わない方々とやっているということですか。
谷尻:そうですね。ただ、私自身は学校を卒業して最初に就職したところは建売住宅を作っている会社でしたし、年間100棟ぐらい確認申請を下ろしていましたので、家をたくさん作る経験はあります。ただ、その時は「なぜこのデザインなんだろう」と、モヤモヤしながら働いていましたが。今、回りに回ってしっかりデザインしたものを分譲できるようになって、ようやく両者が一致した社会になってきた気がします。
林:長期間の伏線回収ですね。
谷尻:20年何年ぶりかです。
加賀爪:私も初めてお聞きした時に、谷尻さんが量産型の建物の設計されたことに驚きました。
谷尻:今は1戸ずつ丁寧に作る仕事をメインにやらせてもらっていますが、昔は年間100棟やって、どこに何が建っているか分からない感じでした。いわば流れ作業です。朝、会社行ってプラン出して、夕方に確認申請を出していました。その時、早く仕事することを覚えましたが。一方で、丁寧に大量生産をするというものもありだと思います。
加賀爪:リフォーム会社、工務店以外では建材屋ですか。
林:建材屋、デベロッパー…。オーナー向けにも提案していただいています。ですから、全く垣根がなくなった気がします。「LIFE LABEL」も「Dolive」も、リフォームから新築をされる方か、元々ビルダーと呼ばれている業界か…でしたが。
リフォームプレイヤーが街並みを変えていく可能性も
加賀爪:三浦さんはどういう事業体の方が、どのように利用されると良いと思いますか?
三浦:おすすめは…。谷尻さんがおっしゃった話はとても面白いと思っていまして。建築家が一生懸命、丁寧に設計して、本気で作ったプロダクトというのは、その建築家の良いところが世に出て行きますので。 私はそういう点でとてもポジティブに捉えています。
例えば無印良品は、デザイナーの名前こそ出していませんが、デザイナーさんが本気で作ったいいものを手に届く価格で世に出していくという、とてもいいプロジェクトだと思っています。それと似ていて、非常に可能性があると思っています。
では、どういうプレイヤーがそれをやると良いかと言えば、リフォームプレイヤーが街並みを変える一環として行うといいでしょう。リノベーションでも街並みは変えていけますし、豊かになりますし。
暮らし方の多様化にも対応できますが、「yado」は「これで街を作ってしまおう」といった作り方もできる気がします。小規模でもいいので、これで街ができるといい感じになりそうです。リフォーム、賃貸、工務店といった新築へのしがらみがない人の方が、このコンセプトを理解してもらえるように思います。
加賀爪:私も新築フランチャイズのようなポジションだとは思いますが、中身を知ればさらに広域で多様性が生まれるはずです。商品に困っている工務店が加盟するイメージではありません。そもそも新築をやっていないリノベ会社などの方が本質を分かっているケースもあります。そこの方がマッチングするかも知れません。
林:「NOT A HOTEL(ノットアホテル)」や「SANU(サヌー)」などのサブスクサービスがありますが…。
加賀爪:谷尻さんがデザインされているところですね。
谷尻:そうですが、やっていることが違います。
林:「NOT A HOTEL」や「SANU」は今、投資家がかなりお金を出しています。金融機関からも出ています。あそこに皆さんの価値が向き始めています。あのような暮らし方の方が、価値がある。そう思わせるのは、われわれの業界からすればマーケティングの骨頂です。ああいったところがもっと出てこないと、私はこの業界は変わらないと思っています。
例えば、今それをリノベーション業界で、新築業界で、工務店の業界で、一生懸命に私たちが伝えようとしても、私たちが乗ったホテルやプレイヤーではありませんので…。時代や市場に工務店の業界がついて行かないと良くないのではないかと私は思います。
加賀爪:私もそう思います。ただ、ついていけるでしょうか。
林:ついて行けなかったらこの業界は終わると思います。だからこそ今、集客がさらにできなくなってきています。新築戸数、リノベーションの物件数が落ちていく時に「キツイ」と感じるのは、アウトプットができないから、アクションができないから、リアクションを起こせないからです。
どこにリアクションを起こさせるべきかと言えば、全くアウトサイダーなサービスが金融機関に対してアクションを起こして、リアクションを起こしています。そこに対して日本人は「あれに価値がある」と思って動いています。だから私は「遅い」と言っているのです。 あれを見て、気づいて取り組むことが大事です。
加賀爪:「NOT A HOTEL」は私も面白いと思っています。やはりそういう流れになってきているということですね。
マネーリテラシーの向上が必要
谷尻:悲しいかな、日本はマネーリテラシーがとても低い国です。建物と投資が結びついていて、ホテルは投資の観点からも高利回りだということよりも、「単に別荘を持つ」という行為が違う価値になっています。リテラシーが低い人は「高いから無理」というよりも、借金をすることをネガティブに捉えてしまっています。
借金というのは、お金を生まない借金が負債です。一方、お金を生む借金は資産です。そういうリテラシーが徐々に高まってきて、お金を借りるということ、お金をどう活用するかということが分かってくると、住宅の中でもそういう部分が結びついてくるはずです。
単に借金して家を建てて、あと35年ローンを払わないといけないという、ネガティブなところだけを見るのではなく、どのように負債ではなく資産にするか。ここまで見えると「yado」に限らず、これから皆さんが家を建てる側になるとしても、家を勧める側になるとしても、顧客にそこまでコミットして話ができた方が良いと思います。家を頼む人は、借金をしてお金を借りることに対してとても不安を抱いていますので、その不安のもとが何なのかを分かることが一番大事かと思います。
加賀爪:これは「yado」に加盟するしないに関わらず、ですね。谷尻さんや林さんの考え方を、住宅会社やリノベ会社の担当の人間が顧客に伝えているかと言えば、伝えていないと思います。
林:リノベーション業界は、それが組み込まれたイメージができるプレイヤーの方が多いので、良い会社が多いと言えます。 リフォーム会社は「キッチンが良くなったから変えたい」というのも有り得ます。その延長線上で全面改装するのであったとしても、ただきれいにするのであれば、これを組み込む必要はありません。
しかし、会社の社長自身がそのリテラシーが必要だと思って社員に与えたとすれば、営業担当はそれをやらなければなりません。かと言ってそれをやることで数字につながるかと言えば難しいです。
では何をするかと言えば、会社が謳わなければなりません。 会社がバックアップしなければなりません。私たちのブランドっていうのは、会社をバックアップするためのツールですので、ツールとして使ってもらえればいいのです。
会社がバックアップしない限りは、現場の営業は数字を取らなければなりません。その数字を先に求めてしまうと、ユーザーの質問、クエスチョンに対してのアンサーしかできなくなります。ティーチングも、コーチングもできません。私が何やってほしいと言えば、会社に「そのスタンスを今から取りに行こう」と第一歩を踏み出してほしいのです。そうすることで変えられると思います。
加賀爪:会社がアナウンスするということですね。
林:そうです。「この街を変えたい」「この街を良くしたい」「みんなの暮らしをもっと楽しくさせたい」だから、この会社のこの建物のデザインは皆さんのためにあるということを、会社がまず伝える。その姿勢をホームページや商品開発、サービスの現場で出していく。そのバックボーンがあれば、営業も顧客に伝えやすくなります。
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