三浦:私は、「yado」は今の段階では、売れなさそうだと思います。 まずはコンセプトや概念を変えていくところから始めなければなりません。この概念を伝えるために、二人はメディア的な展開をされています。それが伝わることで、初めて売れ始めるのではないかと。
業界の論理で言えば、逆に今売れそうなものしか見てもらえなくなっています。ですから、最初は「これは売れなさそうだな」というのをやるのがデザイナーです。
「yado」のデザインそのものは、さすがに谷尻さんが手掛けただけあると思っています。私は住宅が貯金箱になればいいなと思っていまして、「家が働く」というのはまさにそういうことだと思います。とりあえず家を建てておくと、いろいろな場所で家が稼いできてくれる。建てた分だけリターンが返ってくる。そうなると家が貯金箱になっていく。さらに言えば、借りすぎるとローンが付きにくくなりますので、家が貯金箱になっていくと、その貯金箱としての担保価値に銀行がローンを付けてくれようになるといいです。そうなると家が持ちやすくなります。
「yado」は住めたり貸せたり宿的に使ってもらえたりという、適切な案配でやっているので、あとはこの概念がみんなに伝わって、「やはりこれだ」と思ってもらえるようになると、非常に可能性があると思います。
加賀爪:さすがですね~笑
一同:笑
谷尻:怖いです笑。三浦さんに言われると、その通りだと思いますよ。
林:ただですね、私がなぜ「LIFE LABEL」をやってきたかと言うと、日本のデザインとか日本の消費者のいいものは、ファーストのアイキャッチのデザインだけで判断してきた時代だったからです。だから日本はマーケティング後進国と言われるのです。
欧米やヨーロッパには当たり前のようにストーリーテリングがあって、そのデザインに物語が無いものには価値が付きません。「yado」が提供したいのはまさに物語です。それがイメージできないと、その人のライフスタイルの価値につながらないのです。
三浦さんがおっしゃるように、いまだに日本の業界、日本の市場というのは、ただの“パッと見”のデザインだけで良い悪いを判断して、“パッと見”のデザインだけでおしゃれを判断しています。それはアウトプット側もインプット側も同じです。しかし、もうそのような時代ではありません。
金融機関も以前とは違います。そこに物語が無くて未来性がなければ価値が生まれないということが、徐々にばれてきています。だから「yado」がやりたいオールドメディアはストーリーテリングを伝えて、ストーリーテリングが消費者の方々に伝わった時に、それは未来価値やライフスタイルに変わって、価値そのものに変わる。そういった本物のマーケティングを「yado」でやりたいのです。
「LIFE LABEL」や「Dolive」は、それをファッションブランドでやると分かりやすいと思ってやってきました。しかし、それでも時代は全く変わりませんでした。谷尻がやっている「SUPPOSE DESIGN OFFICE」も、それを大きくしたものです。お金持ちはそこに投資ができます。
しかし、なぜそうならないのかと言えば、イメージができないからです。さらにそれを伝えるプレイヤーがいない。私たちはそのプレイヤーになりたいです。ただ、三浦さんがおっしゃるように、私はこの業界、この市場が変わらない限りは日本の住宅市場の価値は絶対に上がらないと思います。
加賀爪:出だしの10分で、もう怒り出してるじゃないですか!(笑)
林:しゃべっていると自分にイライラしてくるだけです(笑)
一同:笑
「yado」の話はしなくてもいい
谷尻:最近、こうやって林と一緒に話をする時に、マーケティングの話題が出ます。私たちが「yado」のインスタグラムやWebサイトでメディア運営をしている時に、実は「yado」の話はほとんどしていません。なぜかと言えば、例えば、ナイキは運動靴の会社ですが、「運動靴って素晴らしい」というCMを見たことがありません。ナイキはスポーツ選手とスポーツが素晴らしいということを世の中に伝え続けています。
その結果、ナイキが選ばれるマーケティングとブランディングが一致しました。Appleも、「Appleのパソコンはすごいだろう」というCMを見たことがありません。それが日本の住宅のCMは「この家はすごいよ」「耐震や断熱ありますよ」と、家の性能の話ばかりします。
しかし私たちがやりたいことは生活が素晴らしく豊かになるためのストーリーです。メディアでは「yado」のコンセプトに基づいて、日本中あるいは世界のホテルや宿をたたえたり、良き生活者をたたえたりして、もっと暮らしがこうあってほしいということを世の中にしっかりと伝えていければと考えています。
結果的に「yado」を買うことができればもちろんうれしいことではありますが、それよりももっとこう大きな構造としてマーケティングをしたいという思いがあります。私たちの作る家が他よりも耐震性が高くて、断熱性が高いなどと言ったことは、メディアに向けて語りたくはないです。
加賀爪:そう!全くその通りですね。三浦さんがおっしゃるように、まず大切なのは啓発活動で。価値観を作り切った後に、最初に旗を揚げたのは自分たちだと、最終的にマネタイズできればいいですし。最悪、マネタイズできなくても…。
谷尻:いえ、できないと困ります(笑)できるつもりでやっています。
加賀爪:訂正します(笑)マネタイズはできますね!
林:賃貸もリノベーションもリフォームのリペアも同じです。なぜこの住宅市場がこうなのかということを考えて、みんなで変えていきたいです、私たちがすべて体現できるかと言えば、決してそうではありません。プレイヤーもユーザーもメディアもみんなで、この日本の市場を、ランドスケープの市場を、ライフスタイルを変えていきたいです。
三浦:だから今、売れなさそうなのです。
林:三浦さんは私をたき付けにきているのでしょう。 私の扱いに慣れているので(笑)
三浦:「yado」に「これぞというキャッチフレーズ」といえるものはありますか。
谷尻:「泊まるように暮らす」です。
三浦:谷尻さんがAppleの話をされていたので思い出しましたが、ipodが出た時、私は飛び付いて買いました。その時のキャッチフレーズが「千曲をポケットに」だったのを今でも覚えています。それまではCDをたくさん持ち歩かなかったら千曲も聴けなかったのが「ポケットに入ります」となったのです。そういう「超一言」がとても大事です。
啓発する時に「泊まるように暮らす」…それはそれでいいのですが…。それだけだと「家に稼いでもらう」というところが、カバーされていないように思います。それを含めてコンセプトとしてうまく伝え切れる言葉があるといいと思います。
林:それは当然、考えていますよね?
谷尻:考えていません(笑)
林:それは広告の発想です。それは進化するタイミングで変わっていくものです。どちらかと言えばマーケティングのテクニックです。「泊まるように暮らす」というのは、最も大きな概念の話をとりあえずしているフェーズだと思います。
加賀爪:全く違う話になるかも知れませんが、某社が住宅ローンで買った家を人に貸しているということで、調査が入っているそうです。
谷尻:入っています(笑)
加賀爪:それは「家が稼いでくれている」中の、一番だめなくくりになるかも知れません。
加賀爪:住宅ローンを借りて家を買ったのに、他人に貸して高利回りする…ということだと思いますが、そうではありませんね。
林:消費プロダクトの本質を歪めてやると、あのようになってしまいます。
加賀爪:私は不動産業界出身ですが、住宅ローンの定義では49%ぐらいまでは人に貸すことができます。50%超えなければいい。
谷尻:住民票がその住所にあって、そこに住んでいるという前提の中であれば、あくまでも民泊の範囲になります。
加賀爪:そうなると、「泊まるように暮らす」という世界観にプラスアルファ、その上に何かあった方がいいというのは確かにあるかと思います。この表現を考えるのは林さんの仕事ですね。
林:私の仕事です。その向こう側に行くための準備も、その市場も整っていませんので、まずは一旦「泊まるように暮らす」です。リノベーションの話にはなりますが、私はリノベーションを体現しようとしていて、うまくいっている業界ではないかと思っています。だから「リノベーション=○○」の定義を考えると、皆が同じ解答にはなりません。
しかし、リノベーションのイメージの中にデザインのラインが走っている理由は、十数年前にマーケティングでそれをインプットした状態で展開しましたし、業界でそれを作り上げていったからです。リノベーションのブランドイメージがそこにあるのは、そのためだとは思います。
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