建築家の谷尻誠さんとBETSUDAI(ベツダイ)Inc. TOKYOのCEOの林哲平さんが手がける住宅ブランドyado(東京都渋谷区)は7月20日、東京ビッグサイトで開催された「リフォーム産業フェア2023」で特別セッションを開催した。テーマは『コンセプトで勝つ。これからの住宅提案に必要なストーリーテリング』。同社共同代表の2人に加え、本紙発行人の三浦祐成、司会進行にダンドリワーク社長の加賀爪宏介さんが登壇。その模様を特別に全文書き起こしで公開する。
加賀爪:おはようございます。今回の内容ですが、谷尻さんと林さんの二人を中心に「yado」というコンセプトの規格住宅や、住まいの概念などについて議論をしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
林:林と申します。私は他の新築の仕事にも携わっておりまして、「LIFE LABEL(ライフレーベル)」と「Dolive(ドライブ)」という2つのブランドを手掛けています。またブランドのPRも兼ねて、個人のラジオ番組をやっておりまして、住宅のエンターテイメント化を目指しています。よろしくお願いします。
谷尻:谷尻です。私はこれまでオーダーの住宅を約20年間作ってきました。普段は1戸ずつ丁寧に、オートクチュールなプレタポルテの住宅を作っています。「街並みを変える」と大きな声で言う割には、オーダー住宅を1棟ずつ作るわけですから、実際にはそこまでの影響力はありません。そこで規格住宅を建築家が取り組むことによって、新しい住宅の未来が提示できるのではないかと考えて、今回、林と一緒に「yado」の会社を立ち上げました。これは自分としても一つのチャレンジになっています。
三浦:三浦と申します。「新建ハウジング」という工務店向けの媒体と、「リノベーションジャーナル」というリノベーションの専門誌をやっています。本日はコメンテーター的に呼ばれたのかと思います。容赦なく突っ込んでまいりますのでよろしくお願いします。
加賀爪:皆さんのお手元に「yado」のパンフレットがあるかと思います。「泊まるように暮らす」というコンセプトで。 私はこのコンセプトを聞いた時に「すごくいいな!」と思いました。自分の住居に対する考え方で足りない部分というのはこれではないかと。「yado」について谷尻さんの方から補足説明をお願いします。
普段の生活をホテルに置き換えると、どうなるのか?
谷尻:私はホテルに泊まるのが好きで、お金がなかった頃から日本に限らずいろいろな所に行って、高いホテルなどにも泊まってきました。ホテルは泊まるとワクワクしますし、テンションが上がりますが、やることは家でやることとそう変わるわけではなく、ご飯を食べて風呂に入って寝るという、それを違う環境でやっているだけです。
それにも関わらずテンションが上がるわけですから、普段の生活も同じようにホテルのような体験に置き換えることができれば、毎日が旅をしているように豊かになるかも知れないと考えました。普段の生活がより彩りのあるものになるようにも思いました。これが根本にあります。
加賀爪:谷尻さんも林さんもそうですが2つの拠点で生活をしてる人には、もともとそういう概念があるように思います。自宅は一つで、他で泊まるのは外泊で…というのではなく、外泊での体験が自分の家での体験と混在する瞬間があります。そういう意味で谷尻さんの体験が「yado」のコンセプトを浮かばせたのではないかと思います。
谷尻:自宅を建てる時に、家とホテルの間のものを設計できないかと考えていました。自宅に人を泊める文化が世界中で生まれ始めているのを見て、「家は働いてくれる」と思ったのです。今までの住宅は、自分のサラリーでローンを返すというイメージでしたが、いずれ自分の労働力は衰退します。
しかし“それなりの家”を建てておくと、自分の代わりに家が働いてくれて、自分が働かなくても外出している間に家が稼いでくれます。スタジオとして稼いでくれたり、宿として稼いでくれたりすると、家を建てた方が良いという発想にもなります。
加賀爪:谷尻さんは、自分が建てる家のコンセプトを有料noteに書いておられますね。
谷尻:私の欲望を月1000円払って読んでいただいているようなものではありますが。建物がどのように稼ぐのかということを、数字を含めて書いています。誰でも住宅ローンとしてある程度のお金は借りられます。しかも日本の金利は安いところで0.3~0.4%ぐらいです。4000万円ぐらいかかったとしても、年間40万円ほど建物が稼いでくれるならば、一般の利回りになります。
ということは銀行にお金を預けておくよりは、家の方が利回りが良いわけです。お金が借りられるのであれば家を建てて、家に働いてもらえばいいのではないかと思います。私の建てる家は、実際には年間40万円よりも、もっと働いてくれます。
加賀爪:本当はもっと儲かっているということですか。
谷尻:いい家は稼ぎます。
林:千葉でやっている物件の空き情報などを見せてもらったことがあります。千葉のいすみという、ここから1時間以上もある場所にありますので、いくら谷尻が「別荘があります」「サウナがあります」と言っても、さすがに泊まる人は居ないだろうと思っていました。それが1泊15万円、20万円にも関わらず、ずっと先まで予約が埋まっています。
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谷尻:私よりもよく働きます(笑)
信用を自分の“財産”と考える
林:それだけ今の人たちの一棟ヴィラに対する価値観が変わってきたということです。私は45歳ですが、われわれの年代はキャッシュを持っていたい派です。 キャッシュを持っている人がお金持ちという印象がありました。
谷尻の話は、 銀行からこれぐらいのお金が借りられるという、「信用」を自分の財産と考えているということです。今の若者たちはもしかすると、1000万円持つことよりも2000万の価値がある物件を借金してでも持っている方が、正しいという時代になってきているのかも知れません。
今はその狭間にあって、借金を怖がる世代と新しい価値に気付いた世代が混在しています。 それを谷尻が何億という物件でやってみせた。普通は何億というスケールの物件で、いきなりやるものではありませんが(笑)物件が小さくあっても大きくあっても、自宅のスケールで同じことができる時代が、今来ているのではないでしょうか。
加賀爪:住宅に対しては、「負債」とか「コスト」という感覚を抱く人たちが圧倒的に多かったはずです。それがこの3年間で一気に変わったように思います。
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