リノベーション事業を展開する上で「中古+リノベーション」か「持ち家、実家のリノベーション」か、事業領域の選択やターゲット設定に迷っているという方もいらっしゃると思います。それぞれの事例を見たり、聞いたりしている方もいらっしゃるでしょう。
当然のことながら、事例の詳細を理解することは簡単なことではありませんし、「どんなところに強みがあるのか」という会社の中核まではなかなか見えてきません。また、「なんとなく知っている」「どんな会社なのかイメージは持っている」という人でも「全体像で見てみましょう」となると言葉に詰まるかもしれません。
本稿の目的は「中古+リノベーション」か「持ち家、実家のリノベーション」か、事例の考察を通じて、進むべき方向性を判断するヒントを若干でも見出すこと。筆者の主観が全くないとは言い切れませんし、論理的に完璧に正しいと言える結論を導き出せているとは思っていませんが、確かさに近づくためのプロセスを通じて、読者の皆様と一緒に考えていけたらと思います。
事例を分解し、比較することで全体像をつかむ
まず、前提として、成熟期、安定期の市場と未成熟の市場というライフサイクルによっても、事例の有用性は変わってくると思います。やはり、未成熟の市場のほうが事例からヒントを見出しやすいでしょう。また、事例から、より確からしい結論に導く際に不可欠となってくるのが的確な事例の選定です。今回は性能向上を前提に、サンプルの数より、質を重視し、一定の事業年商に達し、今もなお堅調に推移していると言われる2社を取り上げます。
通常、企業を分析する際は様々なフレームワークが用いられます。たとえば「SWOT分析」では、強み、弱み、機会、脅威について考察します。あるいは顧客、競合、自社を見ていく「3C分析」を使うという方もいらっしゃるでしょう。しかし事業領域ならではの要素もあり、既存のフレームワークでは全体像をつかむことはできません。そこで今回はピックアップする事例に対して、数字で示せることは数字で、リノベーション事業ならではの各要素に「分解する」、各要素を「比較する」という切り口で、全体像の把握に迫りたいと思います。
類似点と相違点を明らかにして見えてくること
具体的な社名は伏せますが今回事例として取り上げる「中古+リノベーション」に強いA社と「持ち家、実家のリノベーション」を得意とするB社は、大商圏や2000万円を超える性能向上という類似点がある一方、2社には明らかに相違点があることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
まずA社の特徴として、
・デザインに加えて、性能向上の追求に比例して、平均単価が1000万円台から2000万円台へ単価アップ(「新築費用の7~8掛」と「冷暖房費削減」コストパフォーマンスを追求)
・業界指標との比較で低粗利率でも成立する収益構造を前提に「新築でなく予算に収まる中古リノベーション」という客層にマッチするビジネスモデル(工期短縮化等コストダウンも追求しながら、近年は粗利率が26%程度まで上昇 ※以前は22%)
・一次取得者への対応が得意(銀行との提携ローンやライフプランの提案)
・従来から中古住宅に対するインスペクションとプラン作成スピードで信頼を獲得し、中長期客だとしても、中古住宅が確保できた時点で声がかかる関係を構築
・SEOに強い(常に「リノベーション+エリア名」で上位表示)
・広告宣伝費はほぼゼロ、損益分岐点が低い(推定売上高販管費率21%)
以上が主な特徴で価格メリットを訴求できる要素が揃っていると言えるでしょう。
一方、B社は、
・不動産志向より、建築志向が強い(高性能住宅で蓄積した建築リテラシー、基礎への対応力、自然素材へのこだわり等)
・採用から始まる理念共感型経営で、仕様やスタッフに高い次元で浸透
・富裕層、もしくは所得が一定以上の客層の対応が得意
・「新築より安いからリノベーション」というニーズの対応ではなく「家を受け継いでいきたい」という思いへの寄り添いを重視(シニア層及び実家リノベーションの子世帯)
・実家リノベーションという選択肢、カテゴリーの提案性を強化(実家が空き家になっている顧客像も対象)
・不動産価格が高騰する中、「中古+リノベーション」において自社が追求するリノベーションの予算を確保しづらいという背景
・近年はチラシによる集客から脱却し、主軸をインスタグラム、YouTubeにシフト
等々、理念経営をベースに、性能向上を追求しながら、自然素材や造作家具にもこだわり、値ごろ感という判断基準でなく、自社が設定する実家リノベーションというコアターゲットから支持を集めていることが伺えます。
・「中古+リノベーション」を得意とするA社と「持ち家、実家のリノベーション」が得意なB社、それぞれ自社の経営資源や収益構造において相違点がある
・いずれも会社も、自社の強みに適合する事業領域で、一貫性のある全体構造を構築している
・共に、性能向上を押さえた上で差別化要素が複数あり、模倣困難性及び地域において競争優位性を築いている
以上、どちらが正しいか間違っているかではなく、事例研究を通じて、一つの判断材料を提示できればという思いで2社の事例を取り上げました。
あくまでも筆者から見たA社像、B社像ではありますが、大切なことは事例の一部分だけ見るのではなく、複雑に絡み合うリノベーション事業を分解、比較することにより、可能な限り全体像をつかむこと。そして、自社の強み、自社を取り巻く環境を客観視し、単に方向性のヒントにするだけでなく、事例研究から何かアイデアにつなげて、自社のオリジナリティを見出すきっかけにしていただきたいと願っております。
いずれの会社とも、性能向上を追求し、顧客と社会に貢献するという明快な方向性の中で、事業化を実現しており、業界に示唆を与える企業であることは間違いありません。引き続き、リスペクトしながら、今後の発展を見守りたいと思います。
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