新CX論の第6回目「その”顧客満足”の提供は「首尾一貫」していますか?」ではデザインという言葉の意味を捉え直し、企業活動として顧客の課題を意識し解決することで「魅力的品質(なくても不満はないが、充実するほど満足につながる品質)」を高めることが重要であると書いた。そして魅力的品質を高めるための活動の具体なアイデアとして、顧客への満足提供が首尾一貫しているかという観点から「ブランド構築」というテーマを例として挙げた。
ブランドは、自社が提供する商品・サービスが他にはなく自社でしか手に入らない商品・サービスであるか(独自性)、その商品・サービスはいつ、どこで、誰が提供しても顧客の期待通りであるか(一貫性)、そして、独自で一貫性ある商品・サービス提供であると顧客から思われているか(認知)、という3要素が積層して構築されると書いたが、今回は独自性、一貫性、そして、認知獲得の進め方について考える。
これから求められる差別化とは
この連載では、住宅建築事業の将来に対する問題意識として、1=定量的な性能水準を要素とした差別化はできなくなる 2= 1を前提にすると住宅建築事業は「サービス業化」していく、という見方を当初から示してきた。
例えば、物販業に支払う料金・代金は何の対価かを考えると(迅速とかジャストタイムとか数量を間違わないといった要素を前提とした上で)、基本的には受け取ったモノへの対価だと考える。
しかし、同じサービス業でも例えば飲食業のような製造・販売・提供が同時に行われるような商売に対して支払われる料金、代金は何の対価かを考えると、調理という行為への対価だけでなく料理の味、場の雰囲気、行き届いた配慮(接客、音、臭い、照明、清掃…)などへの総合的な対価だと考えるのではないか。
これらを住宅建築に置き換えると、注文通りの家、説明を受けた通りの家に対する商品としての対価を支払うのではなく、例えば顧客からの問合せへの対応やご相談に対する返答の速さや丁寧さ、仕様や設計の打ち合せやプラン提案など営業(接客)場面における「場の雰囲気」、「話しやすさ」や「自分の考えを受け入れてもらったという実感」など、実は住宅の販売や請負事業の仕事の過程にはすでにサービス業としての要素が溢れている。
重要なのは「内なる共感」
この連載では当初から住宅の性能などモノ「だけ」に頼る差別化は難しくなると指摘してきた。言い換えると、ブランド構築の要素の一つ「独自性」を商品磨きだけで実現することは難しいということだ。では独自性はどのような観点で磨くのか。例えば自社の商品・サービスについて「顧客が知りたい」と思うことに容易にアクセスできるUI/UXの提供などを通じて独自であることがきちんと伝わることは独自性を高める一助となる。
独自性を磨くこと以上にブランド構築において重要なのは、一貫性と認知獲得だ。特に一貫性については住宅の販売や建築業が協力会社、関係会社を多く持つ事業であるがゆえに重視すべきだ。
経営者が「環境配慮だ」「ゼロエミッションだ」と声高に宣言し、それをさまざまな販促機会や広報の場面で発信をしていたとしても、例えば現場で喫煙やゴミのポイ捨てなど「ほんのちょっとした行動」が発見されれば経営者の宣言は「形式的なもの」「見た目上のもの」と受け取られ、顧客から宣言と行動が伴わない、「共感を呼ばない」会社と認知される可能性が高まるだろう。
こう考えるとブランド構築において重視すべきは、「内なる共感」ではないか。つまり経営者の対外的な宣言の意味や意義、重要性、必要性などを社員や関係者が理解と浸透を通じて経営者の宣言を内部関係者一人一人が体現できるようにすることから始めなければ、そもそも顧客から共感を呼べないということだ。
こうした社員や関係者に共感を得て宣言を内部の関係者が体現することをインナーブランディングと呼ぶ。インナーブランディングが固く構築され、「いつでも・どこでも・誰でも」自社の宣言を体現し続ける状態が継続・積層することで初めて顧客からの「認知」を得ることができるようになり、いわゆる「あの会社はこういう会社だよね」というブランドが構築されることになる。
ブランド構築の先にある「CX」
その一つの切り口が「DX」
先ほど、住宅の販売や請負事業の仕事の過程にはすでにサービス業としての要素が溢れているとしたが、経営者が目指す自社の姿や取り組むべき事柄の「意味や意義、重要性、必要性」について理解と浸透抜きに、サービス業的過程の一つ一つにおいて顧客に共感を呼ぶような個々人の行動は生まれない。そして個々人の行動が、常に顧客の期待を超えるレベルで共感を呼び起こすようなものでなければ良いCXは生まれない。
ただし、良いCXを生み出すような、顧客の共感を呼ぶ社員や関係者の行動の体現をその人たちの個人の特性に任せて良いのか。そうではない。そうした取り組みを「いつでも・どこでも・誰でも」再現できるようにする一つの切り口がDX(デジタルトランスフォーメーション)だと考える。この辺りについては次回(最終回)でさらに触れることにする。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。