戸籍上は男性だが性同一性障害で女性として生活する経済産業省の50代職員が庁舎内の女性用トイレの使用を不当に制限されているとして、国に制限撤廃を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は7月11日、制限を「適法」とした2審判決を破棄し、制限を行った国の対応は「違法」とする判断を示した。性的少数者の職場環境について、最高裁が判断を示すのは初めて。
職員は1999年ごろに性同一性障害と診断されたが、健康上の理由で性別適合手術は受けず、ホルモン治療を続け、女性として生活。2010年から同僚への説明会を経て、女性の服装で働いてきたが、女性用トイレは、職場から2階以上離れたトイレしか使うことが認められなかった。
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判決では、経産省が2010年の同僚への説明会で女性職員数人が違和感を示し、トイレ使用の制限を決めた点について「明確に異を唱える職員がいたことはうかがえない」とし、その後も見直しを検討しなかったことも問題視した。
さらにホルモン投与を受けている原告が性暴力に及ぶ可能性は低く、他の女性職員とトラブルが起こることは想定しがたいとも言及。他の職員に対する配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視したとして、人事院の判定は裁量権の逸脱・乱用で違法と結論付けた。
この判決を受けて、松野博一官房長官は同日の記者会見で「関係省庁で判決の内容を十分に精査し、適切に対応する」と説明。さらに性的少数者への理解増進法が成立したことを踏まえ、「多様性が尊重され、性的マイノリティーの方もマジョリティーの方も含めた、すべての人々が生き生きとした人生を享受できる社会の実現に向け、しっかり取り組みたい」と述べた。
心と体の性別が一致しない「トランスジェンダー」の職場環境に関する初の最高裁判断。今後、学校や企業で同様のケースを巡る対応に影響を与えそうだ。
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