住宅などを販売、賃貸する際、省エネ性能表示の努力義務を事業者に課す「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」が、2024年4月から始まる見通しだ。現在、制度の検討は大詰めを迎え、パブリックコメントの公募が行われている。
新建ハウジングではこのほど、同制度への関心を高め、より多くの実務者にパブコメを通じて声をあげてもらうべく、急遽公開取材を実施。前真之さん(東京大学大学院准教授)、今泉太爾さん(日本エネルギーパス協会代表理事)、竹内昌義さん(東北芸術工科大学教授)、小山貴史さん(エコワークス社長)、堤太郎さん(M’s構造設計/みんなの住宅研究所代表理事)の5人に、同制度に対する意見を伺った。進行は新建ハウジング発行人・三浦祐成。
表示制度は必要、内容はさらに深めるべき
冒頭に前さんが「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」の概要を解説。前さんは「住宅・建築物の省エネ性能を消費者にわかりやすく伝える表示制度自体とその導入・普及は絶対に必要」というスタンスを取りつつ「適用範囲やスケジュール、ディテールについては改善が必要だ」とした。
例えば、公開されている告示・ガイドラインの案では、ZEH水準を上回る一次エネルギー消費量削減率30%(再エネを除く。再エネを含む場合は50%)の水準が設定されている。しかし、それを大きく超える数字でも制度上は同じ水準で表示される。「基準を超える取り組みが評価されない制度でいいのか」と疑問を投げかけた。
続いて、日本エネルギーパス協会・今泉さんが、同制度検討会の資料を用いて、EU各国の省エネ性能の表示・評価方法とその消費者の受け止め方について解説した。
今泉さんは、日本の現状を「欧州と比べ10年遅れている」としたうえで「EU各国で実施した定量調査では、住み替え時に25%前後が省エネ性能表示が『とても参考になった』と回答している。特に温暖地であるポルトガルでは回答率が高く40%弱が『とても参考になった』としたが、物件グレードの確認に活用されている割合が高かった」と、欧州では性能表示が生活者の行動に影響している状況を解説。
また「EUでは特に若年層ほど地球温暖化防止を視野に省エネ度を重視している」傾向もあるという。
まだパブコメは間に合う、現場から声あげよ
その後メンバー全員で行ったディスカッションの骨子は、前さんが以下のシートにまとめた通り。詳細は動画で確認いただきたい。
工務店からは“官民の表示制度が乱立しすぎている”“国の表示制度は良いものだと考えていない”など、否定的な意見も寄せられた。しかし「パブコメでいろいろな意見が出ると、国の委員会が動いたりもする。生の声を届けることが大事」(竹内さん)と、パブコメの重要性を改めて発信した。
「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」パブリックコメント(締切: 7月15日20時15分)
また「注文住宅における自主表示を促すことも必要」(エコワークス・小山さん)との指摘を受け、新建ハウジングでは、工務店の省エネ性能の自主表示の方法・可能性もあわせて探っていく。
さらに「バックキャスティングをベースとした施策立案という基本が忘れられているのでは」との問題提起もあり、以前行っていた「脱炭素住宅公開取材」を再開、住宅性能のビジョンについて議論していく。
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