国土交通省の国土技術政策総合研究所(茨城県つくば市)はこのほど、2023年5月5日に発生した「奥能登地震」における建築物被害調査報告を公表した。報告によると、瓦屋根に同地域に古くから伝わる工法が採用されていたことで、平部での被害がほとんど発生していなかったことが判明した。さらに「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」(2021年改訂)で施工された住宅の瓦屋根についても無被害であることが分かった。2022年1月施行の瓦屋根に関する基準では、平部を釘などで緊結することなどを義務化している。
今回調査した地域は、震度6強などを観測した石川県珠洲市、野々江町、三崎町、蛸島町など。地震の強さはM6.5で、長周期地震動階級3(立っていることが困難になる非常に大きな揺れ)を観測している。
建物の倒壊は主に伝統的な構法による、壁量が不足した古い木造建築物で発生。店舗併用住宅などで1階の壁量が少なかった建物も被害を受けた。ある倒壊した住宅の1階では横架材に鋼製のラチス梁が使用されていた。他に、寺社の鐘つき堂や墓石、ブロック塀の倒壊も確認している。
特徴的だったのは瓦屋根の平部での被害がほとんどなかったこと。能登地方ではふき土に適した土の入手が困難なため、伝統的に平部の瓦には葺き土を使わず、緊結線などで全て留め付ける工法が採用されてきた。これにより被害が抑えられたと考えられる。同様に、全ての瓦を緊結することを定めた「ガイドライン工法」により施工された2棟についても無被害だった。
同研究所の分析によると、同地域で使われている瓦の多くは、能登産の「能登瓦」と石川県小松市産の「小松瓦」で、豪雪地帯であることから、一見古く見える住宅を含めて、多くの住宅で雪止めの付いた新しい瓦に葺き替えられていた。こうしたことも地震の被害を抑える要因となったと考えられる。
その一方で屋根被害があった建物では、主に棟部で損壊が発生。棟補強金物や芯木への留め付けがなく、棟から緊結線を出して連結させ、葺き土で固める工法を採用していたことが分かった。
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