工務店が活躍できる市場はまだ世の中にたくさんある。未知の分野に挑戦する工務店の疑問や悩みに答え、新たな一歩を踏み出してもらうための新建ハウジングの新企画「行列のできる工務店相談所」がスタート。第1回目のテーマは「はじめての非住宅木造」。注目市場と言われながらまだ実践者の少ないこの世界に、工務店はどう関わるのがいいのか。実践者、工務店のサポーターに疑問をぶつけてみた。
工務店の非住宅事業何から始める?何が必要?
「行列のできる工務店相談所 はじめての非住宅木造編」の回答者は、相羽建設社長・相羽健太郎さん、エヌ・シー・エヌ取締役の福田浩史さん、住宅あんしん保証社長の梅田一彦さんの3人。
住宅の強みを生かして工務店の仕事を増やす
弊社の非住宅(施設)事業、および木造施設協議会の理念は「地域の人が使う施設を、地域の人と材と工夫で建てる」。非住宅は低層でも圧倒的に非木造が多い。(住宅も含めた)低層建築物は木造でつくり、かつ低層の非住宅も、せめて50%は木造でつくられる世の中を目指している。
ターゲットは、住宅の延長線上でつくれる(流通材が利用できる)、500㎡前後~1000㎡以下の規模の施設。地域工務店は、非住宅でも“住宅をやっている”ことが大きな強み、ブランドになる。「住宅のような施設にしてほしい」という要望はとても多い。住宅からのつながりで、木工事や大工もまた強みになる。また、住宅の顧客や子どもの保育園に関係した人脈で受注するなど、地域のつながりも、大手事業者には得られない強みだろう。
私自身は、非住宅は工務店の仕事をつくるための事業と捉えている。木質化、店舗、小さな営繕-何でもいいから、ファンやつながりを生み、工務店の仕事をつくっていく。
非住宅も、住宅と同じように広報、つまり“やっていることを知らせる”ことがとても大事。住宅の広報手法は非住宅でも有効で、特に見学会は、ゼネコンはまず開かないし、実際に受注につながった経験もあるのでおすすめしたい。
非住宅への取り組みによって、社員や職人が社会性の高い仕事に携わった、と誇りを持てるようになったし、経営リスクの分散にもなる。今後は“地域のことは何でもやろう”という意味の「木造・木質ゼネコン」を目指したい。
単一工法では成立しない非住宅の設計をワンストップで支援する
弊社は年間で1500~1600棟のSE構法(構造計算)を提供している。うち約1400棟が住宅で、非住宅は140棟ほど。大空間のホールや、4階建ての建築物も、住宅と同様のシステムで構造設計を支援している。
住宅の場合、ひとつのパッケージを顧客に提案することが一般的だが、非住宅は単一の工法ではサポートしきれない場面も多々ある。非住宅木造を建てたい方に対し、子会社の木構造デザインではSE構法から在来工法、ツーバイフォー、CLTなどの構造設計を支援している。
また、同じくグループ会社の翠豊は、大規模木造が増え、造形も多様化している中、プレカットでは対応できない木材加工・施工を専門とする会社だ。SE構法を中心に、多様な非住宅木造を支援する立場として、ご相談にお答えしたい。
非住宅を請け負う工務店のリスクを検査と保険でサポート
2021年11月からグループ法人の住宅あんしん検査で、非住宅木造向けの瑕疵保証制度を提供している。非住宅の工事請負契約においては、2年程度の瑕疵担保責任(契約不適合責任)を盛り込んでいることがあるが、それでは短いという声も少なくなかった。
制度加入にあたり求められる現場検査での指摘率は、住宅が10%に対し、非住宅は30~40%にのぼる場合がある。検査の実施で、あらかじめ施工不備等がわかり、施工品質が確保されるから安心だ。
また、非住宅は住宅よりも規模が大きく、当然コストも高い。万が一、基礎の補修が必要になるような事故が発生した場合、補修費用が高額になる恐れがある。優秀なドライバーでも自動車保険に加入するように、優れた技術を持つ工務店でも、リスクヘッジとして非住宅向けの瑕疵保証制度を利用する意義があるはずだ。
工務店のお悩み・疑問を三浦が代わって質問!
非住宅事業Q&A
三浦 Q1.工務店が非住宅で成功するための要因は?
福田 ①規模や用途などターゲットを決める、②“木造ができる”という狼煙を上げる(過去の事例を自社サイト等で公開するなど)、③法解釈など住宅とは異なる課題を相談できるパートナーを決める-の3つから始めようと、アドバイスしている。
相羽 「非住宅」という言葉は一般にはなじみがないように思うので、我々は「施設」と言っている。また、住宅地の中なら保育園、地方で高速道路が近くに通っているところなら倉庫、高齢者が多い地域なら高齢者施設、といった風に、地域性はニーズと関連が深いのもポイントだ。
三浦 Q2.非住宅木造の事業化のボトルネックは?その解決策は?
梅田 構造と防耐火の知識はある程度必要。構造計算ができてもうまくプレカットの伏図や施工図まで落とし込むのは難しいので、福田さんのような専門家の力を借りるほうが安心では。
福田 住宅との大きな違いはやはり構造と防耐火。構造では積載荷重やスパンが全く異なるし、防耐火の仕様は規模、用途、地域によって変わる。初期段階から構造や防耐火を意識して計画し、積算や確認申請に対応できる体制を構築することが重要。
三浦 Q3.設計や計算は自社?それとも外注?性能表示・評価は?
相羽 弊社も、構造計算や防耐火はほぼ外注。そもそも補助金の交付を受ける案件は、設計施工分離が原則なので設計事務所との連携は必須。また、積算も500㎡前後の規模で3週間は要するので、外部の積算事務所とも連携している。外注費(100 ~ 150万円)はかかるが、内製化してもそれだけの負担がある。
福田 「壁量計算でも設計できる住宅に対し、非住宅は、小規模でも構造計算でなければ性能が評価できないものが多い。鉄骨造やRC造と同じ土俵で構造計算をきちんとすれば問題ない。また、倉庫や工場なら高い断熱性は求められないので、特定の工法で性能を高めようと考えるより、用途や規模に応じて工法を選ぶ。
三浦 Q4.検査や建築主からの指摘・クレームはどんなところが多いのか?
梅田 基礎配筋検査における指摘事項が、住宅に比べて多いのが特徴。規模が大きく監督の目が届きにくいうえ、関係する業者も多いため連絡不足も増えることが要因のひとつ。ホールダウン金物や筋交いプレートが施工されていないなど、驚くような指摘もある。もちろん我々が検査、指摘があった場合は是正していただく。
相羽 弊社は非住宅でも外部に木を使うことが多いが、木部の経年変化はクレームの要因になりやすい。基本的に事業主と営繕契約を結び、毎年、扱い方やメンテナンスの説明に行くようにしている。
三浦 Q5.非住宅の瑕疵保証って必要?
梅田 瑕疵保証が受注の決め手になった事例は多い。発注者から「10年の保証がないと信頼できない」と言われ、弊社に問い合わせてきた事業者もいる。例えば不同沈下したら補修費用は高額になる。事業主から、営業できなかった間の損害の補填を求められる可能性もあり得る。制度加入に一定の費用はかかるとしても、自社が背負うリスクの重さを考えれば必要性は明白だからではないか。
三浦 Q6.工務店が企業=非住宅の見込み客に向けてPRするには?
相羽 地域のつながりは受注のきっかけとして大きいのだが、意外と「非住宅もできる会社」であることは知られていない。まずは社内外に「非住宅もできる」と周知すること。その他、名刺のデータベースから見学会を案内したり、事業再構築補助金の採択事業者にDMを送ったりもしているが、これも受注に結びつきやすい手法だ。
この記事は新建ハウジング5月30日号1〜3面(2023年5月30日発行)をデジタル用に再編集したものです。また、別冊「月刊アーキテクトビルダー 6月号」のP37からは、“シン・住宅ビジネス”(注文住宅以外の分野の仕事)について取り上げていますので合わせてご覧ください。
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