木造持家の歴史的低迷
地場のビルダー、工務店にとっての問題は木造持家の歴史的な低迷だ。現状の新設住宅着工に基づく木材製品需要はどの程度あるのだろうか。
2022年の新設木造持家は21万戸弱、月平均1万7000戸強まで減少した。2023年は1~3月時点だが3万8000戸弱、月平均1万2500戸前後となっている。
平均的な木材製品使用量原単位を1平方メートル当たり0.191㎥(日本木材総合情報センターの木材需要動向分析調査)で推計すると、2023年1~3月の新設全木造住宅着工戸数の月平均は320万㎥なので木材製品需要規模は61万㎥。
これを新設持家で推計すると月平均200万㎥なので38万㎥強。ここから木造軸組持家戸数に絞ると木造軸組持家戸数は持家全体の72%なので推定木造軸組床面積も連動させると145万㎡。この床面積から推計した新設木造軸組持家における木材製品需要は30万㎥弱ということになる。
もちろん、木材製品需要はその他の工法の住宅建築、さらに非住宅木造建築、建築以外の需要分野が厳然としてあり、この数量をもって云々することは誤解を招くことになりかねないが、輸入抑制や減産強化に取り組んでも木材製品の需給バランスを獲得できない最大の原因はこうした需要の低迷にある。
2×4コンポーネント大手は、次のように話す。
「木材価格高騰前、カナダ西部内陸産SPF2×4製材(Jグレード)のアッセンブル価格は5万円(車上渡し、㎥)前後だったが、日本向け輸出価格が4倍近くになり私たちの販売価格も16万~17万円まで急騰した。現在、新規の日本向け輸出価格から試算した先物原価は6万円近くに反落しているが、手持ちの在庫コストはまだ高値に張り付いており、大幅下落した先物原価で手持ちコストを薄めている状況。短い回転率での正常な輸入体制に戻るにはまだ時間がかかる」
新建ハウジングでも建設業の経営破綻に関する記事が急増してきた。
新型コロナ感染症問題、2021年を前後した内外産木材製品価格の歴史的高騰、その後の新設住宅需要の減退、さらに経営者の高齢化と後継者難、難渋する職人確保問題、配送問題(2024年問題)など経営悪化に至る要因は様々だが、新設住宅需要の落ち込みは特にビルダー、工務店にとって致命的な一打となっている。
2025年4月施行の新たな法制度が致命的な打撃に
しかしながら今後の新設住宅需要については今以上に厳しい環境となるおそれがある。前記した「2025年問題」だ。
2025年4月から構造規制の合理化と建築物の規模の見直しが行われ、新設木造住宅の大半を占める4号建築物に対する見直しが行われる。
これにより階数2以上または延床面積200㎡超は構造に関係なくすべての地域で建築確認・検査を必要とし、確認申請の際に確認申請書・図書に加え、構造関係規定等図書や省エネ関連図書を必要とする。
2025年4月の施行ですべての新築住宅・非住宅に対する省エネ基準適合が義務化され、省エネ基準に適合しない場合や必要な手続き・書面の整備を怠った場合は確認申請や検査済証が発行されず、着工、使用開始が遅延する恐れがある。建築主は新たに省エネに関する適合性判定を行う必要も出てくる。
ZEH水準等の木造住宅・建築物を対象とした壁・柱の構造基準の見直しも2025年4月施行の予定だ。ZEH水準の住宅となると屋根等への太陽光パネル設置が必須で、それに伴う建築物の鉛直荷重増加に対し必要な壁量等の基準を見直す必要がある。
許容応力度計算等による構造計算で安全性を確認する方法であれば壁量計算は省略することが可能だが、一般的には柱等の木質構造材を太くする方法が考えられる。
しかし、現状の木造軸組住宅の多くは105mm角の管柱を使用しており、これを120mm角に変えることは仕様変更もだが、何よりも120mm管柱(構造用製材、特にJAS機械等級区分構造用製材、集成管柱など)の供給力にも不安が出てくる。
「120mm角の集成管柱に変更するとして、そのためのラミナがあるのか」とは集成材メーカーの指摘だ。
既に大手住宅会社内では120mm角管柱仕様等の新たな設計検討が本格化しているというが、ビルダー、工務店が同様の技術レベルで対抗できるかは疑問だ。同時に壁量計算等の構造計算に対応できるかどうかも不安要素となる。
非住宅案件で活況を呈するゼネコン大手
ここまで厳しい需要環境についてみてきたが、非住宅建築分野は極めて忙しい状況にある。
ある中堅ゼネコンによると「スーパーゼネコンは超大型案件で手いっぱいになっており、数億円程度であれば入札に参入しない傾向にある」という。
この活況を主導しているのが「先端半導体の国内生産拠点の確保事業」「特定半導体生産施設整備等計画」などの国策大型事業だ。
国も700億円を補助しトヨタ自動車など大手8社が出資設立したRapidus(ラピダス)がその代表といえ、今後、全国で次世代半導体の拠点施設が次々と建設される
また、2025年初に開幕する大阪万博も施設工事が佳境を迎え、6~7月にはまだ施工等の事業体が決定していない各国パビリオン入札が行われ、突貫工事が始まる。
大阪では梅田北ターミナル2期工事、さらに夢洲でのIR事業工事も控え、関西圏の施工関係者、さらに木質材料供給者は空前の忙しさという。こうした繁忙は少なくとも2030年まで続くようだ。
大阪万博のシンボルとなる大屋根(リング)だけでも大断面構造用集成材等2万1000㎥、CLT5000㎥が使われる。日本館も日本CLT協会支給の形でCLTを大量に使用したパビリオンとなるようだ。こうしたことから各種木質構造材等の製造・加工事業者も既にかなり忙しい状況となっており、「これ以上受注を受けられない」といった話も聞かれる。
懸念される職人不足
問題はこうした非住宅建築物に多くの人手がとられる点だ。特に施工管理技士等の建設土木技術者が足りず、引き抜きも日常茶飯事と聞く。施工に関する職人確保も容易でない。大工等の職人確保は建設業界の懸案課題であるが、地域によっては職人確保が一層大変な状況となると考えられる。
林野庁は全国木材組合連合会を事業主体として今年度もJAS構造材実証支援事業(第1次)の募集を5月8日から開始したが、6月2日の締め切りを待たず5月19日に締め切った。使い勝手の良い補助事業として毎年人気があるが、10日ほどで予算額に達したというのは驚きだ。
それだけ建設業界で脱新設住宅として非住宅木造建築への関心が高まってきたことの現れであるが、工務関係者は「木造住宅と木造非住宅は全く違う。取り組むべき業務であるのは確かだが、やれる事業者は限られてくる。プレカットCADにも課題がある」と指摘する。
その一方、新たな事業に意欲を燃やす工務店も少なくない。
非住宅を含め2×4工法建て方では知名度の高い工務店(千葉県)は、新規事業としてCLT建て方への参入を決め、日本CLT協会の建て方研修にも参加、研鑽を積んでいる。「CLTパネルの荷降ろしから始まり、高所クレーンでの建て方、基礎とCLTパネルの収まり調整など一から勉強しているところ。
ただ、この特殊技術が身に付けば当社の強みになる。CLTパネル建て方全般を監督できる工務店はまだ少なく、今後は建て方技能を持つ仲間と協業することも考えている」と語る。
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