現在の受注状況について木造軸組プレカット大手の経営者は「昨年度の木造軸組プレカット受注は前年比で9掛けだったが現状はさらに鈍化、昨年度の8~9掛けで推移しており、明らかに受注が緩んでいる」と指摘する。
プレカット事業者間で温度差はあるだろうが、統計開始以来、最低水準にある新設持家着工戸数をみれば当然といえる。
プレカット加工能力に対する需要の低迷が顕著だ。主な木材製品輸入は2023年1~4月累計で前年同期比40%以上の激減となっており、これまでであれば極度の品不足不安を背景とした買い増しの動きが出て価格が再騰しても不思議でない局面なのだが、内外産木材製品市況は未だ軟調で底値を探る展開、一部の構造材では突飛安も聞かれる。それだけ実需が貧困だということであろう。
ただ、新設住宅市場に依拠する工務店、ビルダーにとって本当に厳しい状況が到来するのはこれからだ。巷間、建設・運輸産業における働き方改革を背景とした2024年問題が取り沙汰されているが、ビルダー、工務店、さらに製材事業者やプレカットを含む木材製品流通事業者にとって真に考えなければならないことは「2025年問題」だ。
さかのぼること2005年、構造計算書偽装事件(姉歯事件)が発覚した。この事件に対し、国はどのように対応し、その結果、建築物需要はどう変化したのか―。
今も記憶している関係者は少なくないと思う。待ち受ける2025年問題はおそらくこの事件を契機として起きた建築需要の収縮に匹敵するほどの影響を及ぼすと予想する。
2025年問題では、単に新設住宅着工戸数が減少するにとどまらず、国が要求する新たな基準に呼応できない事業者が少なからず出てくる。既に増加傾向にある建設業の経営破綻は、2025年問題で淘汰の速度を一層早めるものとなろう。
本来、工務店等に対し設計支援等を含めた総合的なサポート機能を期待されているプレカット事業者も、現状のCAD能力やCAD技術者不足がネックとなり適切な設計支援体制が組めるか疑問である。
ここではまず、新設木造住宅需要の低迷がもたらした木材製品価格市況に関する直近の状況、2025年問題で何が変わるのか、さらに住宅市場とは全く異なり需要活況に沸く非住宅建築物市場についてみていく。
新設住宅需要の落ち込みが木材市況を直撃
内外産木材製品価格は輸入製品の入荷抑制を背景に底値探りの局面だが地合いはまだ弱い。特に構造用製材と構造用集成材の直接的な価格競合が熾烈だ。
梁桁材ではともに高騰した国内挽き米松KD平角既製品と欧州産・国内産レッドパイン集成平角既製品が、一転して著しい需要収縮に直面し限られた実需を互いに取りに行った結果、底値(2020年8月)5万円台(販売店着、㎥)から2021年11月ピーク時には13万円まで高騰した国内挽き米松KD平角既製品(4m×150×180~240mm)が6万5000円まで反落している。
競合相手である欧州産レッドパイン集成平角既製品は5万円台前半の安値に低迷していたが、2021年末までに内外産ともに15万円前後まで高騰し、現状は7万円台まで下落している。
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最も競合関係が顕著な大壁工法用管柱は特に国産材針葉樹KD柱角対内外産ホワイトウッド集成管柱と杉集成管柱が価格競合しあう。底値(同)5万4000円(販売店着、㎥)だったホワイトウッド集成管柱既製品(3m×105mm角)は2021年11月のピーク時には15万円強と3倍近くに高騰、当時は調達に大苦戦したが、現在は7万円割れと半値以下に下落している。
ホワイトウッド集成管柱反落の影響を最も顕著に受けたのが新興勢力ともいえる杉集成管柱で、ピーク時にはホワイトウッド集成管柱並みに高騰したが、ホワイトウッド集成管柱が需給緩和し大幅に値も下げた結果、杉集成管柱引き合いが鈍化し、ついには6万円(販売店着、立方メートル)を割り込む安値も散見するほどになった。
大壁用管柱材料として最もシェアの大きい杉KD柱角もこうした競合と無関係ではいられない。2020年8月には4万5000円(市売、㎥)まで下がっていた杉KD柱角(特等、3m×105mm角)は2021年9月に12万円まで高騰したが、現在は7万円前後まで下落、現状も軟調地合いを続けている。
先高気配が出てこない原因は実需の弱さ
いつの時代でも木材製品価格を決定するのは需給であるが、2021年を前後した木材価格高騰は先高一色の市況にあおられて流通主導で高値買いした結果であり、実需とかけ離れた空前の仮需が発生し木材需給を緩和させた。
改めて実需、特に新設木造住宅の本当の需要が今どうなっているのかを適切に把握する必要がある。
2023年1~4月の主要木材製品輸入は歴史的な落ち込みの途上にある。輸入製材は102万㎥(前年同期比43%減)、輸入合板は44万㎥(同36%減)、輸入集成材は20万㎥(同48%減)。
輸入製材のうちカナダ材は同35%減、欧州材は48%減、ロシア材は同53%減で、引き続き低調な輸入が続き、港頭在庫は減少していく。東京港の5月末在庫は13万㎥弱と2022年8月末のピーク比で38%減少し夏場には10万㎥前後とさらに在庫圧縮が進むのは確実だが、まったく先高気配が出てこない原因は実需の弱さに尽きる。
2023年4月の新設住宅着工戸数は持家が17カ月連続で前年同期比減となり、1~4月累計も7万戸強と同10%減にとどまり5カ月連続で2万戸を割り込んだ。2023年4月は分譲、貸家も前年比減となっており、特に分譲は新設マンション需要の落ち込みで4月が同22%減になった。唯一健闘してきた貸家も微減だが4月は減少に転じた。
2022年度(22年4月~23年3月)の新設持家戸数は25万戸弱にとどまり比較可能な1965年以降の統計で初めて25万戸を割り込む結果となった。2023年度はさらに下押しするおそれが強い。
建販大手問屋が行った木材建材主要メーカーの販売予測でも2023年7~9月の販売が減少するとの回答は合板が69%、木質建材が44%、窯業・断熱が36%減、住設機器が32%などとなっており、ほぼ一斉に実施された製品価格の大幅値上げがどこまで買い手に浸透できるか微妙な局面にある。
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