新建ハウジング(新建新聞社)は6月7・8日、地域工務店による地域工務店らしいまちづくりの実例と実現のためのノウハウを学ぶ「野きろの杜」視察・研修ツアーを、新潟県新潟市内で分譲事業(34区画)が進む現地などで開催した。
まちづくり型の分譲プロジェクトやミニ分譲の計画を持っている工務店など全国から24社・36人が参加。
野きろの杜の敷地内で地元工務店がモデルハウスとして活用しながら販売中の住宅やHEAT20・G2レベルの性能を備える高性能賃貸住宅を視察したり、事業を手がけた実践者の話を聞くなどして学びを深めた。
100年後の未来を見据えたまちをつくろう」という理想を掲げる野きろの杜プロジェクトは、新潟土地建物販売センター(新潟市)が不動産開発と企画管理、石田伸一建築事務所(同)がグランドデザイン、アウトドア総合メーカーのスノーピーク(三条市)が“野遊び”のある暮らしや住まいの監修と3社が協働して取り組む。参加者は7日、田園に囲まれ、「弥彦山」を望む豊かな自然と眺望に恵まれた6600坪の敷地で、地元工務店のモデルハウス3棟や施工中の物件、高性能賃貸住宅(4棟8戸)のほか公共的な広場・施設、スノーピークの店舗などを視察。「地域の風景をつくる街並み」という考え方や、G2・G3レベルの高性能な住宅を地域の木材を用いて地域の工務店がつくる“地材地建”が、どのように具現化されているかを確認した。
建物が増えるほど 統一感と景観的価値が向上
4月にグランドオープンしたばかりの野きろの杜で、完成している建物の数が限られているものの、全て木板張りの建物群を実際に見た参加者からは「想像していた以上に見ごたえのある景色。(分譲が進む)数年後がさらに楽しみ」との声があがっていた。風景をつくる街並みを形成し、野遊びのある暮らしを実現するため、野きろの杜では住宅の性能や間取り(外部とつながる土間空間・アウトドアリビングの確保)、使用する素材、外構・植栽などについて細かなガイドライン(建築協定)が定められている。特に外壁については、窯業系・金属系サイディングやタイルの使用を禁止とし、スギ板張りを推奨していることから、分譲が進んで住宅が増えるほど街並みとしての統一感や景観的な価値が高まることになる。
地材地建の実現に向け 林業・製材所を経営
8日は座学研修を行い、野きろの杜のグランドデザインを手がけた石田伸一建築事務所代表の石田伸一さんと新潟土地建物販売センター代表の川上創さんが実践者として講演し、同プロジェクトにかけた想いを語り、実現手法について説明した。また、野きろの杜で住宅を建築中のサトウ工務店社長の佐藤高志さんと、モデルハウスを建築したオフィスHanako営業の小野綾乃さんがゲストスピーカーとして登壇した。
石田さんは「人と人がつながる野遊びのある街」というコンセプトや長野県軽井沢町などの自治体が運用している景観条例を参考にして策定した建築協定によって、「立地条件だけで住まいを選択する人を排除して、街並みだけでなく、暮らしの価値観を共有する良質なコミュニティを生み出すことができる」とし、「それにより『野きろの杜に住みたい』と思うエンドユーザーが、そのために工務店を探すという流れをつくるのが狙い」と話した。
石田さんは、地材地建の街並みを実現するためのポイントとして、自ら林業と製材所を経営しながら、そこで外装材や合板、床材などの内装材を生産していることや、その製品を自分も参加している新潟県内の設計事務所、工務店といった住宅業界の関係者でつくるコミュニティ「住学(すがく)」の仲間たちが使用してくれることなどを挙げた。
不動産事業者とパートナーシップを
川上さんは「点(1つの土地・住宅)としてではなく面(街並み)としての価値と現時点だけでなく未来の価値を創造したかった」と野きろの杜プロジェクトにかける想いを語った。そのうえで川上さんは「企画力と具現化力を石田伸一建築事務所とスノーピークが担い、ファイナンス(事業資金調達)と情報(土地)収集を当社が担うという別軸のリソースが相まったからこそプロジェクトを進めることができた」とし、「皆さんが本気で野きろの杜のようなプロジェクトを実現しようと思うなら、ぜひ不動産事業者とのパートナーシップを考えるべきだ」と訴えた。
この記事は新建ハウジング6月20日号4面(2023年6月20日発行)に掲載しています。
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