「新・CX論」の第3回目(「工務店が選ばれる必然性」をつくれているか)では、顧客がお金を払いたいことは何か、顧客が自社に支払う料金や代金を何の対価と捉えているのか、を正しく理解しておくことがCX向上につながると書いた。
今回は、顧客の期待を超える便益と満足の提供に向けてできることは何か。例えば部材・建材流通がネットワーク化した後に、あるいは性能競争がある程度行き着いた先に持つべき、もしかするとすでに持っている企業が出始めている「競争優位性」について考えてみる。
顧客にとっての「差」は何か
戸建て住宅の請負市場はプレファブリケーションを用い、工場生産部材の使用割合を高めた工法で住宅の量産を可能にしたプレイヤーと、従来型の工法を用いロングテール的な供給を支える中小事業者という、いわば二極の供給体制によって構成されてきた。
量産を可能にした大企業は、さらに販促費に加えて広告宣伝費を投下しブランドを構築するプロモーションでシェア拡大、利益獲得を進めてきたのに対し、中小事業者は顧客との物理的・心理的距離の近さと商品・サービスの質と価格のバランス(割安さ)を武器にプロモーションをしてきた。
少なくとも消費者からそう見えてきたわけだが、この先は期待される温熱環境性能を担保するために使用する部材・建材では「大差」がつきにくくなり、あるいは中小企業による個別調達では割高で限定的になりがちな資材もFCやVCへの加盟や共同調達ネットワークに参加することで「大差」の要因ではなくなる可能性が高まっている。
またSNSを含むプロモーション手法の拡がりによって企業規模の差を乗り越えた好評判の獲得やブランド構築が可能になっている。
調達などの格差の縮小は生産体制の裏側で起こっていることで消費者に直接かつ明らかに見えないが、実質的にはその差が小さくなりそこにプロモーション手法や投下量による差も小さくなっていくことを考えれば、商品・サービスの性能・品質は企業規模や有名・無名に由来しないという認識が広まる可能性は否定できない。
差を明らかに示すために強化すべき力
商品・サービスの差が企業規模や有名・無名に由来しないとした時、その先に差別化を図るポイントはどこにあるのか。すでに言われている例には、魅力的な意匠提案や消費者自身も気づかない生活上の課題発見とその解決提案などの設計を起点としたいわゆるソフト力の強化という視点がある。
前述した力量を伸ばすための能力開発や人材採用・教育はもちろん重要な差別化要素の一つだだが、もう少し「幅広」に捉えてみるのはどうだろうか。それは「営業力」という捉え方だ。
ここでいう営業とはいわゆるセールスという部門(分野)に限った話ではない。
一般通念として指す営業とは「利益を得る目的で同種の行為を継続的・反復的に行うこと」であり、この力を高めることが明らかな差別化を図る上で必要であると理解することが大事なのだ。
実は本連載のテーマを新・CX論としたのはセールス力ではなく「営業」力を高めるという捉え方を伝えたいという意図の現れでもある。
利益を得ることを目的とした一連の活動を行うにあたって前回も書いたように、売上(売上がもたらす利益)は顧客の期待を上回った時にもたらされるものである。そこから考えれば営業力とは一連の企業活動のあらゆる段階において顧客の期待を上回るための力であり、程度の高い営業力を発揮し続けることで得られるのが利益だと言える。
将来の顧客が欲しいもの、得たいものを正しく理解することから始まり、理解に即した商品・サービスを実現し、実現した商品・サービスを顧客に正しくわかりやすく伝えるなど、一連の活動の程度を通貫して高めることが「差別化」のポイントとなるのだ。
今回は本当の競合は誰か?という問いかけから始めたが、本当の競合は他社ではなく、むしろ自社内の一連の営業活動を分担する人材一人一人の利益創造(=顧客の期待を上回る)意識と行動、連携が競合優位を決めるという捉え方を持つことが大事になるのではないか。
<前回まで>
連載#1 いま、伝えたい。「工務店こそ圧倒的“顧客体験”を高めよ」
連載#2 【助言】「御社は事業環境の変化を的確に捉えてますか?」
連載#3 「工務店が選ばれる必然性」をつくれているか
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