新建新聞社・新建ハウジングでは、住宅ビジネスムック「これからのリフォーム・中古住宅がわかる本」を発刊しました。以下にその一部を抜粋して紹介します。まず特集1「これからの中古住宅とリフォーム」から「住宅貧乏」の現状と「ストック循環型市場」の可能性について(文・三浦祐成/新建新聞社)です。
(前略)「住宅貧乏」=建物が資産として評価されず「家を所有すると貧乏になる」現状が続いたことで、日本はこの30年間で500兆円以上を失ったとする試算もあります。個人としての「貧乏」にその影響はとどまりません。
逆に、住宅寿命が100年だったならば、国民ひとりあたり100万円、130兆円のプラスになったとの試算もあります
これらはマクロの大きな話ですが、この「住宅貧乏」の現実は、経済自体にも大きな損失を招いているということで、政策的な失敗と言ってもいいでしょう。
なぜ「住宅貧乏」が起きてしまったのか
「住宅貧乏」の要因としてはまず、政府が景気対策として新築を優遇する施策を続け、最近まで中古住宅市場を省みなかったことがあります。つまり、新築を行うほうが「お得」、それが「当たり前」だと思わせ続けたわけです。
こうしたプロパガンダを続けた政府も政府ですが、それに乗り続けた住宅業界も偉そうなことは言えませんし、当事者として賢い選択をする努力を怠った生活者も「暮らしのリテラシー」に欠けていたと言わざるを得ません。
「暮らしのリテラシー」などというと格好つけすぎかもしれませんが、どう自分の暮らしを豊かに楽しくするのか、どう賢く生きていくのかを、自分でしっかりと考える姿勢とスキルです。それがバブル崩壊後、次の豊かさを追求するうえで必要だったはずですが、豊かさを深めずさらにモノ的豊かさを追い続けてきた結果、いまがあります。
モノ的豊かさが行き着く先は、簡単便利でリーズナブルというファスト化です。家もその価値観をベースとする新建材でつくられるようになりましたし、家の中にあるものの大半がファストなモノとなりました。一方、自分で学び、吟味し、育てる必要がある家具やインテリア、アート、グリーンを楽しむという文化は、一般生活者の間ではほとんど育ちませんでした。
「住宅貧乏」には、住宅が負担になる・資産にならないというだけでなく、こうした住宅という空間の貧しさ、暮らしの貧しさという側面もあるように思います。
「脱・住宅貧乏」1 家を長く住み継ぐ
この「住宅貧乏」からどう抜け出すのか、つまりどう「脱・住宅貧乏」するかは「縮む日本」での大きなテーマだと思っています。
「脱・住宅貧乏」の方法は大きくふたつです。
ひとつは、家を長く住み継いでいくことです。たとえば親から子へ、子から孫へ、3代は使う。最低でも木材が育つサイクル、60年は使う。
そうすると子や孫は住宅建築・取得費が不要となり、メンテナンス費程度の負担で済みますから、そのぶんを暮らしの楽しさ・豊かさ、たとえばリフォーム、家具やインテリア、アート、グリーンなどに使うこと「も」できます(メンテンンス・リフォームがきちんと行われるので家も長持ちするでしょう)。
欧州、特に北欧では、住宅を含めた耐久消費財を長く大切に使い、代々引き継いでいくことで、住宅費を減らし、それによって生活のゆとりを生んでいます[図]。
そのゆとりを前述のような暮らしの楽しさ・豊かさに再投資する。だから、欧州の中流以上の家庭の暮らしぶりは収入よりも豊かに見えるのです。一般的な家庭でもインテリアを楽しみ、別荘を持っているケースも少なくありません。
その中で、「暮らしのリテラシー」が洗練されていき、自分にとって豊かで楽しい時間をもたらす「いいモノ」を吟味する目が育まれるのではないでしょうか。また、その時間を、家族はもちろん周りの人たちと「シェア」する姿勢も育まれます。
これが「住まう豊かさ」ということで、縮む日本はこちらに向かうしかないと思います。
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