まっすぐに技術を磨き、建築と向き合っていればOK、という時代ではなくなった。残念ながらそれが真実―。
どんな工務店で、どんな家を造るのか。どんなイベントを開催しているのか。それらすべてを、SNSを通して未来のお客様に伝えなくてはならない。
近年では、そういった情報だけでは足らず、どんな姿勢で向き合うのかという「工務店の想いやストーリー」も、より明確にSNSで伝える必要がある。そう、筆者は常に感じている。
そこで必要になるのは、SNSの運用スキルだけではない。掲載する素材の調達には、撮影、動画やサムネイルの作成。イベントを開催するにも、その企画や実行にも労力をかける必要がある。
どの地域工務店も、一定の水準を満たした建築が実現できるようになった時代。差別化を図るための課題は山積みだ。
筆者が行うサポート事業は、ナノ工務店やアーキテクトビルダーとの親和性が高い。日頃から関係の深い彼らは、その少人数体制ゆえに、課題に対するアクションを実施しにくいと悩んでいるケースがほとんどである。
では、限られたリソースで持続可能な工務店経営を行っていくにはどうすればいいのか。今回、「希望の工務店進化論」と題した新建ハウジングDIGITALでの連載で、地域工務店が”未来”をつくっていくための、あり方をお伝えしていきたい。
深刻な「人」不足と「人」に投資しない会社
先述した「業務の多様化」「スキル不足」だけでなく、「人不足」も業界に大きく根を張る課題である。
筆者の住まう新潟市も、人口の減少は著しい。人口が減れば、着工戸数も減る。職人不足と高齢化、住宅性能の均質化が同時並行で発生する。
さらには、広く日本の社会背景を捉えた時。「企業は人に投資せず、個人も学ばない」という課題も抱えていると言える。
社員の能力開発は企業の生産性向上に直結するため、海外では積極的に人材投資をするのに対し、日本はOJTに偏る傾向が強い。また「社外学習・自己啓発を行っていない人」の割合も日本は国際的に極めて高い水準にある。そのため「企業は人に投資せず、個人も学ばない」という現状が明らかになっているのだ。
しかし、これを読んでくださっている皆様と同じように、筆者は地域工務店の可能性を信じている。建築および、建築を通した空間設計がもたらすものが、生活者を豊かにする。その力を、業界に携わる中で十分に理解させてもらった。
では、これからの工務店はどのようにしてこの課題に向き合い、対応していくべきだろうか。
エクセレントチームの必然性
多様な課題解決を叶えるのは、多様なスキルであり、イノベーションだ。
それらイノベーションを創出するのが、今後の工務店のあり方、生き残り方だと考える。
自社人材だけで、これまで注力しきれていなかった建築以外の業務時間を捻出するのはやはり難しい。停滞したその状況を、フリーランスの人材との協業を叶えることで、打破することができる。
自社と、社外の専門スキルを持った人材との、協業体制。筆者はこの状態を「エクセレントチーム」と呼称している。
専門スキルを発揮してもらうことで、社内だけでは得られなかった学びが生まれる。それが、上層部だけでなく若手社員の活性化にも繋がっていき、結果、時代に即した強いチームができあがるのだ。
「SNS運用を自社で行うために、今期から多額のコンサル料を投資している」といった話はよく耳にするが、エクセレントチームの体制は、そこまでのコストをかけずに多様な悩みを解決することが可能なのである。
チームの作り方・動き方を実体験を交えてお届け
建築業界の視点で、地域工務店の課題を捉えるのでは、狭い。
もっと広い視野で、課題を社外にもシェアし、スピード感を持って解決していく。その環境整備力が、今後の経営者に求められるものではないかと、筆者は考える。
業界を憂うのではなく、そのチェンジリーダーの打ち手として。
社外人材が、どのような場面で活躍するのか。また、活躍できる環境を整えるため、経営者が持つべき視点やスタンスは何か。
第2回以降は、これらについて実践と考察を交えてお伝えしていきたい。
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