ウッドショックと称される内外産木材製品価格の歴史的高騰が2021年から22年前半まで続いたが、ウッドショックが終焉した今、需要の収縮という新たな危機が到来している。好材料が全く見えない。
「この状況にどこまで耐えられるか、今はそういう局面に入ったと考えている」―。
プレカットも行う中堅木材建材販社の経営者は厳しい表情で指摘する。知り合いの木材会社2社が5月に入り、たて続けに経営破綻したという。「新型コロナ関連のゼロゼロ融資は死に体だった企業を2年程度延命させただけのことで、カンフル剤効果が切れたあと、どうなるのか」と語る。
木材製品輸入激減も市場は動かず
予想通り木材製品輸入が激減している。2023年第1四半期(1~3月)の主要木材製品輸入数量はロシア産製材が11万7000㎥(前年同期比56%減)、欧州産製材が37万2000㎥(同48%減)、欧州産が大半を占める集成材が12万㎥(同50%減)、カナダ産製材が17万3000㎥(同35%減)などで、輸入製材全体では77万5000立方㍍、同45%減と激減した。
木材価格高騰を受けて、2021年末から22年第1四半期にかけ、近年にない集中入荷が起き、主要港頭や物流倉庫に大量に滞留した結果、新規買い付けが困難となり、2022年第3四半期以降輸入抑制が本格化したことによる。
輸入製品需給推移は拠点港である東京15号地の動態がわかりやすい。同港の輸入製品在庫は直近で最も減少した2021年1月末(7万2000㎥)から22年8月末には21万㎥弱と2.9倍に膨れ上がった。在庫払底で木材製品価格を一気に押し上げ、2022年上半期の大量輸入をもたらし、一転して空前の在庫急拡大を起こした。
本来であれば需給緩和により木材製品価格は反落する場面であったが、産地高で当該在庫の輸入コストは軒並み記録的な上昇となり、月々増えていく保管費用がさらにコストを押し上げていったため、先安と見切って売り急ぐ余地がなく、在庫調整に時間を要した。ただし、昨年夏以降、木材製品価格はまとまった幅で下降し現在に至っている(後述)。
東京15号地在庫は2023年4月末時点で13万5000㎥と2022年8月末のピーク比で35%強減少した。引き続き輸入抑制が続くことから、2023年夏場には10万㎥前後まで在庫圧縮が進む見通しだ。これは従来の適正在庫水準からみて少なすぎる数量で、需給引き締まりを背景に輸入製品価格は反発に転じる局面だが、先高気配は乏しい。肝心の建築需要が一段と脆弱化しているためだ。
在来木造持家戸数1万3000戸の現実
建設産業を取り巻く情勢は厳しい。新設住宅着工をみると、工務店が最も依拠する持家は16カ月連続で前年同月比マイナスとなっており、この4カ月は連続して2万戸を大きく下回っている。過去60年間でも最低水準だ。
戸建て持家については住宅大手も同様に苦戦しており、この先、上向く要因は見えず、今後、政策金利が上昇するようだと住宅ローン金利にも影響し、新設住宅需要、特に戸建て持家需要を冷やすことになりかねない。
2023年3月の在来木造持家戸数は1万3000戸弱にとどまっており、単純に1棟あたり20立方㍍の構造材、羽柄材を使用するとしてわずか26万㎥の需要でしかないことになる。
もちろん、貸家や分譲住宅向け建築材需要もあり、こうした見方は極論に走り過ぎではあるが、月間70万㎥前後の国産材製材供給、大幅に減少したとはいえ月次25万㎥前後の輸入製品、さらに米松等輸入丸太を原材料とした構造、羽柄製材もあり、建築需要と内外産木材製品供給の現地位置は明らかに需要過多である。
輸入製品の供給が大幅に減少しても一向に先高気配が出てこないのはこうしたことが背景にある。
東京商工リサーチ調査による新型コロナに起因した経営破綻は2023年4月末時点で6000件弱(負債額1000万円以上)、このうち建設業は700件弱となったという。今年に入って建設業の経営破綻件数が急増している。建設業がどの程度制度活用しているかは不明だが、ゼロゼロ融資の返済時期が到来し始めていることも今後の建設業動向を考えるうえで無視できない問題だ。
ゼロゼロ融資とは新型コロナ問題が影響して売上が減少した企業の資金調達を支援する目的で開始された実質無担保無利子の融資制度で、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫といった政府系金融機関が実施し、その後民間金融機関も提供を開始したことで利用企業が大幅に増加したといわれる。
利用企業の多くは2年以下での返済開始設定としており既に元本返済が始まっている。建設業の利用状況は不明だが、建築資材全般の価格高騰、新設住宅需要の減退が直撃しており、さらに融資返済も始まるとなると資金繰りはかなりきつい。
今後、2023年10月から開始されるインボイス制度やアスベスト事前調査、2024年問題とまでいわれる建設労働者や運輸労働者に対する抜本的な働き方改革も新たなコスト要因となる。
大工の数が三分の一に
深刻な人手不足は建設業全体の課題だ。素材生産、製材・加工、プレカットといった建設業に関係する次産業においても同様の課題に直面しており、解決策が見えない。全建総連がさきごろ2020年国勢調査に基づく「大工の将来に関する国勢調査分析」はショッキングな内容であった。
1980年に320万人弱だった建設業従事者は2020年に189万人と40%減少しており、このうち大工は1980年の94万人弱をピークに2020年は30万人弱に激減している。
大工に占める60歳以上は20年で43%に上ったが、現状は50%前後と推定される。急速に高齢化が進む一方、2020年の19歳以下就業者数はわずか2560人にとどまっている。
同分析では建設業従事者数の予測も行っているが、2045~2050年に現状の半減、2060~2065年には三分の一になると予測。
2020年で30万人弱まで減少した建築大工は、2030年に半減以下の14万5000人、2045年に三分の一以下の8万人、2060年に5万人まで減少すると予測している。このままでは従来通りの手法で住宅を建築することが難しくなる。
ある大工親方は「初期経費としてハイエース400万円、工具等で70万~80万円、数年おきに買い替えが必要。これに消耗品費として例えば充電池1個2万円、丸鋸の歯1枚4000円など、なんだかんだ年間100万円かかる。現状の年収では意気込んで大工になろうと考える若手は限られて当然」と指摘する。
内外産木材ともに下げ一色
内外産木材市況は軟調だ。4月以降も売れ行きは一段と鈍っており、木造軸組プレカットの稼働率も伸び悩んでいる。首都圏の木材製品市売の出来値は4月以降特に弱くなった。杉KD特等3m105㎜角はピーク12万円(市売、㎥)まで続伸したが、現状は7万円前後に下落している。杉KD特等30×105㎜間柱も12万円が現状は7万円がらみとなっている。桧KD特等3m×105㎜角は14万円を天井に8万~8万5000円に下がった。
外材では梁桁材の主力である国内挽き米松KD平角既製品が10万円強(販売店着、㎥)から数次にわたる値下げで6万5000円(販売店着、㎥)となった。競合する欧州産レッドパイン集成平角既製品の日本向け価格が下降したことで15万円(オントラ、㎥)をピークに7万円台前半まで下落し、米松平角も対抗せざるを得ない状況となっている。
欧州産ホワイトウッドKD間柱も弱い。ピーク11万円強まで跳ね上がったが現状は7万円(オントラ立方㍍)がらみ、一部卸売大手が3月末の期末セールという名目で見切りの大幅下げした。国内産ホワイトウッド集成管柱は高値5000円(販売店着、1本)強をピークに現状2300円と既に半値になっている。
ロシア産アカマツKDタルキ30×40mmは良材(S級)で高値12万円前後だったが現状は9万5000円前後、中級品(P級)は8万円前後。ロシア産アカマツが高騰したころはD級などの下級材は中級品代替で引き合が活発だったが、ロシア材輸入が急増し中級品の価格がこなれたことで引き合いが低下し売りにくいという。
最も価格変動が激しいのは2×4工法住宅構造材となるカナダ産SPF製材だ。2020年夏場には500ドル(C&F、1000FBM)弱だった日本向けJグレード輸出価格は2021年夏場前には1825ドル(同)まで急騰したが、その後反落に転じ現在590ドル(同)とピーク比で68%下落した。
短期でここまで価格が変動することを予測するのは不可能といえ、特に産地価格下落局面では、大幅下落した先物輸入コストに対し空前の高コストとなった既輸入在庫に強烈な評価損が発生することから、新規輸入を封じられた格好になった。国内価格はピーク12万円(オントラ、㎥)が現状8万円以下、先物産地価格を元にした輸入コスト試算は6万円台に入ってくる。
ウッドショックと言われる内外産木材製品価格の歴史的高騰は終焉した。これから起きることはウッドショック前と比べ著しく縮小した建築材需要のパイを競合する製材関係者が奪い合う展開だ。木材製品全体が供給過多にあると指摘したが、同じことは木造軸組プレカット産業にも当てはまり、値上げ一色でここまで来た非木質を含む住設建材も需要の減少を前に、どこまで強気を維持できるか疑問である。[/sml-is-logged-in]
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