地域の木を使って地域の工務店がつくる木の家が立ち並ぶまち―。
地方ならではの暮らしや住まいの豊かさに対する価値観を共有する地域の設計事務所や工務店、不動産会社が連携し、主導的に取り組むまちづくりのモデルケースとして注目を集める分譲地「野きろの杜」(新潟県新潟市和納地区)が4月22日、グランドオープンした。これを受け新建ハウジングでは6月7日・8日、「野きろの杜で学ぶ地域工務店の未来戦略」をテーマに、“地材地建”のまちづくりを実際に視察しながら、事業化のノウハウを学ぶ研修ツアーの開催を決定。全国の工務店や設計事務所、不動産会社などからの参加を募っている。
野きろの杜は、新潟土地建物販売センター(新潟市)が不動産開発と企画管理、石田伸一建築事務所(同)がグランドデザイン、アウトドア総合メーカーのスノーピーク(三条市)が“野遊び”のある暮らしや住まいの監修と3社が協働し、「100年後の未来を見据えたまちをつくろう」とのコンセプトを掲げて取り組むプロジェクトだ。
田園に囲まれ、「弥彦山」を含む山並みを見渡せる眺望に恵まれた6600坪の敷地で、34区画の宅地分譲などを進める。すでに地域工務店による建売販売型の3棟の期間限定モデルハウス(石田伸一建築事務所×サルキジーヌ、丸正建設、オフィスHanako)や8戸の高性能賃貸住宅、キャンプやバーベキュー、焚き火が楽しめる広場・共有施設、スノーピークの店舗がオープンしている。
性能・意匠などの ガイドラインを策定
野きろの杜の最大の特徴は、街並みを守り、良質なコミュニティを形成するために、住宅の構造・性能や意匠、外構について厳密なルールを定めた「ガイドライン」が設けられていることだ。
地材地建を実現するため、例えばば構造材は新潟県産材か、県内を流れる信濃川とその上流の千曲川の流域産の木材を用いることとし、外壁については窯業系・金属系サイディングは使用禁止、原則としてスギ板材で、左官仕上げも可能とする。このガイドラインによる“縛り”によって、実質的にはハウスメーカーや量産会社などは建てられないようになっている。
実際、すでに建っているモデルハウス3棟や高性能賃貸、店舗、共有施設の全てがスギ板張りの外壁(1棟は焼杉)で、一般的な分譲地とは明らかに異なる風情を醸し出している。
エリア内に建つ住宅について性能面では、耐震は許容応力度計算による等級2以上、断熱については賃貸住宅も含めてHEAT20・G2以上(UA値0.34W/㎡K以下)とするよう規定。そのほか家に居ながらにして“野遊び”を楽しめるよう、広い庭やウッドデッキ、庭とリビングをつなぐ土間空間なども設けるよう定められている。敷地内には3本以上の植樹をすることとし、隣地との境界には可能な限り生垣や柵・塀を設けないことを求めている。
面的な価値を高める
石田伸一建築事務所代表の石田伸一さんは「今後、地域の工務店が生き残っていくためには、住宅1棟ではなく、面(エリア)的な価値を高めることによって住宅を含む不動産としての資産価値を高めていくことが不可欠になる」と訴える。
住宅(性能・デザイン・素材)に加えて、ライフスタイル、街並みとしての景観、さらにはそこに生まれる良質なコミュニティまで含めてエリア価値を最大化することで、個別の暮らしの豊かさと満足度、資産価値も相乗的に向上させようというのが野きろの杜プロジェクトの狙いだ。
高性能賃貸で“購入”以外の選択肢
新潟土地建物販売センター代表の川上創さんも熱い想いを持っている。同社が地域材を用いて建てたG2レベルの温熱環境を備える高性能賃貸には「地域の人たちに“購入”以外の方法で良質な住空間で暮らす選択肢を示したい」という川上さんの想いが込められている。
経済情勢が厳しさを増し、家族のあり方が多様化する社会で「地域の不動産会社や工務店、設計事務所が高性能で良質な賃貸住宅の供給も真剣に考えていくべきではないか」と川上さんは投げかける。
「日常のなかで自然に親しみ、人間性を回復する」ことをうたうスノーピークは近年、住空間の提案やコミュニティづくりに力を入れる。
野きろの杜の分譲(土地)価格には、テントやバーベキューセットなど約50万円分のスノーピークのアウトドアギアが含まれており、住民が自動的に日々の暮らしのなかでアウトドアを楽しむ“仕掛け”が施されている。また、敷地内の店舗でアウトドア・キャンプ用品なども販売しながら、まちの中心部に設けられた1800㎡の広大な敷地をキャンプサイトに位置づけ、住民同士の交流やコミュニティの構築を促す。
この記事は新建ハウジング5月10日号4面(2023年5月10日発行)に掲載しています。会員制ページにログインすると、紙面ビューアーでご覧いただけます。
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6月7日・8日に開催する新建ハウジング主催「野きろの杜視察・研修ツアー」では、石田さんや川上さん、スノーピーク事業担当者らが講師として、住宅の特徴やガイドライン、事業者連携のポイントや事業化のノウハウなどについて解説します。
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