米国市場におけるカナダ西部内陸産SPF製材価格は2×4(№2&ベター)は2021年5月の1640ドル(工場渡し、1000 FBM)を最高値に、2023年3月下旬には364ドル(同)まで下落している。
2022年末から400ドル割れとなっており、これを受けてSPF製材の主産地であるカナダのブリティッシュコロンビア州(BC州)内陸製材産地は現在、恒久的な閉鎖、長期一時閉鎖、シフト削減などで生産能力の30%規模の減産に入っている。この大規模減産により2023年2月のシカゴ製材先物市場価格は500ドル前後まで反発したが、その後4月13日には395ドルまで下がっており、2021~22年のような製材価格高騰は当分の間起きることはない。
BC州内陸産地最大の不安は州有林伐採水準が激減している点が気になるところだ。BC州有林丸太伐採量(沿岸部も含む)は2018年の4700万㎥規模から2022年には3000万㎥強まで減少した。BC州の製材産業は恒常的な原材料丸太不足を余儀なくされ、さらなる製材工場永久閉鎖が出てくる恐れもある。
空前の好景気に沸いた北米製材産業に何が起きているのか―。
まず、北米製材価格の急騰であるが、400ドル(1000FBM)前後であった先物価格が短期間に1600ドルまで跳ね上がるだけの需要面の根拠は全くなく、多分に投機的な思惑を背景としたものであった。
その思惑の呪縛は完全に解け、次に来たのがインフレ抑制という名のもとに断行された連邦準備制度理事会の政策金利短期連続引き上げであった。2023年2月1日にも0.25%の引き上げが実施され、2022年からの8回にわたる引き上げ幅は実に4.5%にもなり、さらに米国の政策金利急上昇は各国間の金利差を広げ為替動向を不安定にしている。
政策金利引き上げを受けて米国の住宅金融各社は住宅ローン金利の大幅引き上げを開始し、30年物固定の住宅ローン金利は直近底値の2.74%(2021年1月)からピーク(2022年11月10日)7.08%まで急上昇した。2023年4月上旬金利は6.28%まで下降しているが、新設のみならず中古住宅市場にも冷や水を浴びせかけ、米国の住宅需要は急ブレーキがかかっている。
米国住宅需要は減退
2022年の米国新築住宅販売戸数は64万5000戸(前年比16%減)、中古住宅販売戸数は503万戸(同18%減)、となった。米国住宅販売戸数は歴史的な住宅ローン金利低下を背景に活況を呈してきたが、金利急騰を受け2022年第4四半期以降情勢を一変させている。2023年前半も金利高が足かせとなり当面、米国住宅需要は減退を続けると予想する。
日本向け製材価格も既に大幅下落している。SPF2×4~8(Jグレード)の日本向け価格は2021年夏場に1825ドル(C&F、1000 FBM、ノミナル、メーン港揚げ)まで高騰した。
SPF2×4製材の国内価格が13万円といわれた時期である。これも2023年第1四半期価格は635ドル(同)まで続落した。推定輸入コスト(1ドル130円)はオントラックで6万円台まで高値が修正されてきた。
ただ、カナダ西部内陸産地のSPF2×4(№2&ベター)は下げ止まりと考えられ、当面500ドル(同)前後で輸入推移するのであれば日本向け635ドルは産地としても下げ限界にきている。
2022年のカナダ産製材輸入量は100万㎥割れとなった。戦後一貫輸入製材の最大産地として君臨してきたカナダにとって大事件だ。前年比40%近い減少になった。価格高騰が需要を蹴散らした典型的な事象であるが、現在も複数の日本向け拠点製材工場の減産が続いており日本市場での巻き返しは難しい。
“ハイリスク”なロシア市場
家具大手イケアが完全撤退
ウクライナへの侵略で想定外の情勢となっているロシア産地は引き続き不透明な状況だ。ロシアにとり重要な輸出先であるEUとの貿易が遮断され、ロシア国内の木材製品製造事業者、特にEUを主力出荷先としていた企業は一様に減産や生産停止となっている。
ロシア北西部最大の製材・木質ペレット製造事業者であるULKグループは大型木質ペレット製造工場を昨年末で一時閉鎖、従業員をレイオフするとともに新規設備投資を凍結した。欧州市場を失ったことでロシア産木質ペレットの最大バイヤーは韓国になっている。
ロシアに林産物製造拠点を有する欧米の林産大手は相次いで生産部門の投げ売り的な売却を進めている。今年に入り米国の林産大手インターナショナルペーパーは50%経営権を有するロシアの林産大手イリムグループの経営権を売却した。
世界的な家具大手であるイケア(スエーデン)も完全撤退している。安定的な木質原材料調達、人件費等の製造コスト削減を背景にロシア進出した欧米各社だが、欧米政府の経済制裁によりロシアから欧米市場等への製品販売が困難な状況に陥っている。
2022年のロシア産針葉樹製材入荷量は80万㎥弱、前年比31%増となった。特に2022年上半期だけで50万㎥近く、経済制裁でロシア材輸入が難しくなるとの思惑が広がり緊急買付が急増した結果だが、実需とのギャップから港頭には大量の在庫が滞留した。
ただ、2022年9月以降、月次入荷が5万㎥割れとなっており、在庫調整は一気に進む。ロシアの素材生産は厳冬期の伐採が主力となることから、この冬山伐採が低調だと製材生産量も減少してくる。在庫調整進展後、新規引き合いが出た際にどの程度の製材供給ができるのか流動要因だ。
ロシアの中国市場シフトは続く
もう一つ、中国のロシア材輸入動向が気になるところだ。2019年には年間600万㎥近かった中国のロシア産丸太輸入がロシアの丸太輸出規制により2022年は12万㎥まで減少している。一方、中国のロシア産製材輸入は2022年1300万㎥強となっており、欧州市場への輸出の落ち込みは中国市場でカバーしているといえ、ロシアの中国市場シフトは続くと考えられる。欧州向け余剰が中国に向かうとなると価格面でも安値が予想される。一部は中国経由で日本向けにも回りそうだ。
新たな不確定要素も出てきた。ロシアを拠点とする環境団体が、日本によるロシア産木材輸入がロシアのウクライナ侵略に加担しているとの強い論調だ。この主張が世界の環境団体に波及する場合、新たな圧力が出てくることも織り込んでおく必要がある。
懸念されるインフレ進行と金利高、エネルギー問題
欧州市場は著しいインフレ進行と金利高、さらに高騰するエネルギー問題も相乗して景気が鈍化している。欧州を代表する総合林産大手ストゥーラエンソは「依然として続く市場の混乱と不確実性、マクロ経済環境、インフレ圧力に対して警戒を続けている。2023年の方が収益面でより厳しいと予想され、市場の軟化と変動費の圧力が今年の業績に重くのしかかる」と年次決算書の中で述べている。
欧州産製材入荷も2022年11入荷から減少が顕著になっている。2022年夏場から新規成約を大幅に絞ったためで、2023年も当面低調な入荷に終始するとみられ、ロシア産製材同様需給調整は急速に進む。欧州産製材、集成材は契約から入荷までのリードタイムが長いこと、依然として買い付けが低調なことから今春以降、再び品不足局面となる可能性があり注意する必要がある。
日本向け輸出価格もこの段階で下げ止まりするが、景気鈍化で欧州域内需要が伸び悩んでおり、期近での日本向けユーロ建て輸出価格の大幅高は考えにくい。
欧州産地にとっても日本以上に中国市場動向が注目点となる。中国の2022年欧州産材輸入は丸太1000万㎥、製材370万㎥にのぼり、特に丸太は製紙用など低質材が大半とみられるが、輸出規制強化が実施されたロシア産の代替需要を獲得した格好だ。
輸入木材製品価格が下落しても
国産材シフトは進む
輸入木材価格急騰に伴う代替需要が急増して販売数量、販売価格とも著しく伸びた。ただ、販売数量については仮需が少なからずあったこと、価格については上げ過ぎた。輸入製品の大量入荷により仮需が引いたことで国産材製品荷動きは鈍化し、販売価格も反落している。
需要家にとって価格の乱高下は最も嫌うところであるが、国産材業界はいまだにそうした視野に欠けると感じる。価格・供給・品質の安定を優先できれば自ずと国産材のシェアは高まると思う。
国産針葉樹構造用合板はウッドショック時と一変し、急激な出荷の落ち込みから在庫が前年同月比2倍と急増しており、合板メーカー各社は危機感を強め大幅減産を断行している。減産に伴い、合板用となるB材丸太需要も落ち込んでいる。
2023年の国産材価格動向は弱含み横ばいで推移すると予想する。国産材KD構造材等の一般製材が2021~22年のような価格高騰と入手難を起こすとは考えにくい。国産材針葉樹製品の強みは為替や海上船運賃・輸送にかかるリードタイムの影響を受けず、海外の市場や産地動向とも一線を画している点だ。
国も国産材活用で相当なテコ入れをしており、今後、輸入木材製品価格が下落しても工務店の国産材シフトは進むと考える。むしろ、積極的に国産材活用を提唱することで差別化もできる。国産材木質構造材供給体制も整備されており、非住宅木造建築分野は新設住宅以上に国産材化が進む分野だ。
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