住宅性能向上DXコンソーシアム第1回研究発表会
東京大学前研究室、アンドパッド、YKK AP、新建ハウジングの4者は2022年9月、性能向上リノベーション普及の課題を解決するための共同研究プラットフォームとして「住宅性能向上DXコンソーシアム」を立ち上げた。4月6日にはオンラインで初の研究発表会を開催。性能向上リノベの普及に向けた課題や研究・開発の進捗状況などを報告した。
業界と生活者をDXの力で変革しよう
性能向上リノベーションの重要性は議論の余地がないが、普及は進んでいない。行政、事業者、生活者それぞれに要因はあるが、話題の「先進的窓リノベ事業」からは、高断熱窓を普及させようという、行政の本気が伺る。今度は事業者と生活者が変わる番だ。
断熱改修実施者の満足度は高いが、リフォームに断熱改修を含める人は現状では2割程度に過ぎない。改修の効果を見える化し、比較することが大事だが、サーモ画像や室温、月々の電気代など、多数のデータを管理するのは大変。誰でも簡単に扱えるプラットフォームが必要ではないか。
また、リノベーションを事業化しようにも、中小工務店が全てを自社でやるのは大変難しい。効率的なプロセスを、業界全体で共有していかなくてはいけない。ここでもDXの力が求められている。
本コンソーシアムでは、住まい手、つくり手双方を支えるプラットフォームをつくっていく。DXは皆で力を合わせるということだ。ぜひ実現したい。
DXの力で効果・信頼を可視化していく
住宅性能向上DXコンソーシアムのミッションは「すべての家を、安心・快適・省エネに」。性能向上リノベーションを主題に、最終的にはDXに落とし込むことを目指し活動していく。活動の骨子は、性能向上リノベーションの普及を阻害する2つのボトルネックを解消すること。1つは「効果」自体の見える化、2つ目は「信頼」の見える化だ。
本コンソーシアムは4者の共同研究で、研究成果や開発されたツールを、性能向上リノベの会会員や新建ハウジング読者、ANDPAD契約会社に拡大していくことを考えている。実測ダッシュボード開発、営業ツール開発、施工ノウハウ・システム化、フォーラム企画・政策提言、この4つのプロジェクトをWG(ワーキンググループ)で進めている。
活動内容は、今後も継続的に発信していく。ダッシュボードの開発にあたっては協力いただける工務店を募集したい。施工ノウハウは、ANDPADに組み込んだり、新建ハウジング紙面でも公開するつもりだ。
事業化をサポートする機能を実装中
弊社では、性能向上リノベーション事業の立ち上げを支援するためのDXツールを開発中だ。まず改修前の現状把握や、効果を見える化するために、サーモ画像の自動線形処理機能や、温湿度のデータ(CSVファイル)を取り込み、わかりやすく表示するダッシュボード機能や、生活者向けのレポート出力機能の開発を進めている。
また、営業から着工までの段取りをスムーズにするため、全国の協力パートナーからご提供いただいたノウハウをもとに、タスク管理テンプレートをつくっている。テンプレートに従って業務を推進することで抜けや漏れを防ぐことができる。
現地調査もチェックシートをANDPADに反映させ、アプリ上で調査項目の確認・記入・管理ができるようにしていく。さらに、ANDPAD内にマニュアルやテキストを組み込み、施工現場でも簡単に参照できる機能の実装を目指す。
最終段階である効果計測については、改修前後のサーモ画像の表示・比較や、計測データの時間軸での比較を可能にしていく。今秋には正式提供を目指したい。
提案力をつけて入口のつまづきを解消する
リノベーションといっても、持家、中古住宅購入ワンストップ型、買取再販とスキームはさまざま。ビジネスの形態も大きく変わるので、自社がどこを目指すかしっかり決めることが、事業化においては大事だと考える。
性能向上リノベーションへの取り組みでは、物件の見立て方や目指すべき性能、工事費、資金計画など、入口付近のつまづきが大変多いと感じている。重要なのは提案力。生活者の予算を引き上げ、健康や快適性を訴求しながらフルリノベを提案する。そして新築の代替手段としての性能向上リノベーションを提案できる。この2つが現状で目指すべき方向性だと考える。
そのためには、社内で取り組みの方向性について意識を共有し、さらに情報(営業、工程管理)共有もDXでムダやムラを省くことが重要。物件の選定(インスペクション)や業者間の情報のやり取りも、DXがサポートになるだろう。
事業として成功させるためには、どこまで本気で性能向上リノベーションに取り組むかを考えなくてはならない。得意・苦手分野やボトルネックを把握するなど、自社を振り返るいい機会にもなるだろう。
究極の目標はウェルビーイングな住まいの普及
2023年を「性能向上リノベーション普及元年」にしたい、というのが私の本コンソーシアムにおけるファーストイシューだ。新しいビジネスを始めるには、モデル化=型化が必要。コンソーシアムでは、「普及元年」に合わせ、ノウハウを型化しながら普及を図っていきたい。
性能向上リノベーションのコンセプトとは何か。私は「ウェルビーイング(幸せな状態の持続)」だと捉えている。幸せな状態を住まいで生み出すには、住宅貧乏病を、性能向上と広義のリノベーションで解消しなくてはならない。コンソーシアムの究極目標は、ウェルビーイングな住まいと暮らしを増やすことだ。
メリットやベネフィットを説明するのにDXが有効、というのは本日のお話の通り。皆様と考えたいのは、どうやって認識を変えるか。“性能向上リノベーションが暮らしを変える”、“リフォームするときは性能も高めるのが当たり前”。そう生活者の認識を変えていくことが大事。それにはDXの力も借りながら、ファクト(事実)の蓄積で信頼を積み重ねるのが有効だ。工務店がシミュレーションから実測、検証・改善のサイクルを回せるよう、コンソーシアムでサポートしたい。
住宅性能向上DXコンソーシアム
https://www.s-housing.jp/consortium
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