2018年にリノベーション市場に本格参入し、5期連続で堅調に業績推移しているリノベーション会社があります。それが岐阜県岐阜市に本社を持つWOODYYLIFEです。WOODYYLIFEは不動産部門、アフターメンテナンス部門も持ちながら、「心豊かな人生をつくる」という理念のもと、性能向上、本物素材にこだわるリノベーション事業の会社として、着実に地域での認知度を高めています。
WOODYYLIFEの事業展開における一番の特徴は、本格参入時に事業部にしたこと(その後、分社化)。任せられ、委ねられた当事者意識が育まれやすい環境で、地域や顧客にとって正しいと信じるリノベーションに真摯に取り組む建築好き、会社好きのメンバーで構成されています。
単に「新築市場が縮小するから」という動機だけでない、「自分たちの仕事だ」という矜持や使命感がひしひしと伝わってくる組織であることも見逃せません。WOODYYLIFEは単に大手やどこか1社の真似をして自社の体質に合わないことをするのではなく、やらないことと取り組むことが明確で、やると決めたことは好不況にかかわらず一貫してやり抜くカルチャーがある会社です。
想いを共有する社員、職人さんがいて、それが性能向上や仕様に練り込まれ、施工現場にいたるまで浸透し、その上でリノベーション事業の全体設計ができていることが大きなポイントです。
実家、持ち家のリノベーションがメイン客層
コアターゲットとして設定したのは、中古を買ってリノベーションするという顧客像ではなく、実家を受け継ぎリノベーションするという層。実家に対する思い入れがあり、家に対する悩みがあるが、すべて壊すのではなく、リノベーションで解決したいという情緒的な価値観に寄り添うのは、いわゆる営業会社にはない、自分たちが得意とすることだと考えているからでもあります。こうした思いに寄り添い、築古の戸建住宅を匠の技で蘇らせることはWOODYYLIFEの真骨頂と言えます。
本格スタートし、突破口となったのが2019年に開設したフラッグシップとしてのリノベーションモデルハウスです。立ち上げ時のオープン販促後、半年間でリノベーションを10件本契約(設計契約15件)につながった重要な集客起点として機能しました。
私が知る限り、当時、岐阜市及び周辺エリアにリノベーションのモデルハウスは存在しませんでした。集客設計としては、このリノベーションモデルハウスの来場予約につながるよう、チラシ、リノベーション専門サイトを軸に、専門店として一貫性のある顧客接点を整えた点が大きなポイントです。
モデルハウスは、後述する目に見えにくい商品力を体感というかたちで訴求するもので提供価値を伝えたり、共通認識を醸成したりする役割を担います。来場客は断熱や本物素材あふれる住環境を体感し、快適さにつながる性能面や木のデザインなど感性に訴える要素に共感してリノベーションの依頼につながっています。
一般的にリノベーションモデルハウスのオープン販促は同じ商圏内の場合、1棟目が最も反響が多く、2棟目、3棟目とオープンを重ねるごとに来場が減少する傾向がありますが、認知度の高まりやリノベーション実績の蓄積による信頼感のアップに比例して、平常時(イベント外)の来場予約が増えてきますので、結果として売上拡大につながるという見立てです。
初回面談では概算提示する仕組みをつくっています(設計契約後に詳細見積を提示)。概算を伝えることは、初めてリノベーションする顧客にとって、いくらかかるのか、それは最も知りたい情報の一つであり、大きな安心感を生みます。組織面は営業、設計、施工管理までリノベーションの専属スタッフがチームとなって対応します。
また、月1回、事業部メンバーが全員施工現場に集まり、意見交換する施工研修を開催する等ナレッジの共有による衆知経営もWOODYYLIFEらしい取り組みの一つです。
商品力としては、新建材は使わず岐阜県産材、セルロースファイバーなど自然素材が標準仕様です。また、耐震に関しては、上部構造だけでなく基礎補強から徹底します。地盤に関して懸念される場合は地盤改良の可能性も探ります。
素材や性能へのこだわりは新築では同質化しやすい要素でも、ライフサイクルが未成熟なリノベーションでは差別化につながることが往々にしてあります。こうした一連の取り組み、判断基準には徹底した顧客視点があるからに他なりません。リノベーション事業に本格参入する前から、顧客視点に関しては、極めて意識の高い会社でした。
WOODYYLIFEの量的ではない質的な次元の持続可能性や地域貢献につながる取り組みが評価され、1号棟の中鶉リノベーションモデルハウスはグッドデザイン賞、リノベーションオブザイヤー(性能向上リノベーション賞)をダブル受賞。2号棟の鏡島リノベーションモデルハウスは持続可能性や中山道の街並みを応援する姿勢が評価され、再びリノベーションオブザイヤー(地域貢献リノベーション賞)を受賞しています。
リノベーション市場の競合
この市場には大手リフォーム会社が存在します。顧客側とすれば、だれでも知っている全国ブランドの会社に頼むほうがやはり安心感があると思う人もいるでしょう。某大手リフォーム会社は坪単価制でパッケージ化するかたちを採用しています。
また基本、新建材を採用し、性能向上に関して、優先度は長らく耐震重視で事業展開。施工現場での断熱・気密は意識は高まっているものの発展途上という印象です。耐震も基礎補強というより基礎補修レベルの現場が多いと聞いています。
一方、WOODYYLIFEでは設計契約後は詳細見積りを作成し、断熱材や基礎補強、自然素材や造作家具にもこだわります。つまり、効率追求の大手が対応しきれない、顧客にとって良いことが差別化要素として機能する事業モデルです。近年、新築が売りづらくなる中、積極的にリノベーションに参入する例も少しずつ増えてきています。
そんな中でもWOODYYLIFEは売上、利益を伸ばし、社員数も13名、14名と着実に増えています。その背景には、石橋社長の本業発想のもと、組織力、商品力に競争優位性があるからだと言えます。
今後も、リフォーム市場全体を対象にするのではなく、あいまいなリノベーション市場にあいまいな定義のままリノベーション参入するのでもなく、あくまでも自分たちが正しいと信じるリノベーションのあり方を地域に発信し、その領域の中で独自ポジションをつくるという考え方で展開されていくことでしょう。
私の見解
WOODYYLIFEのリノベーション事業が軌道に乗った最大の要因は部分最適でなく、事業化に不可欠な全体設計を哲学、想い、こだわりをベースに構築したこと。常にそれを支える「人」が存在するということです。経営トップである石橋社長が重視している人材育成がリノベーション事業においても活かされているのです。
経営資源の最適配分の見極めや業務の属人化など常に課題はあるものの、WOODYYLIFEの取り組みは参入障壁が高いと言われるリノベーション事業において、示唆を与えてくれていると思います。新しい未来図において、リノベーション事業が経営を支えながら発展すること、リノベーション事業で人が輝くこと、そのような工務店、そのような人があふれる業界になることを願ってやみません。〈続く〉
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