今回は、工務店DXの現在地と題して、成功企業と失敗企業の差分について述べていくことにしたい。きのう登壇させてもらった新建ハウジング主催のオンラインセミナー「イエトーーク!住宅DX編」でも一部お話させていただいたが、改めて解説していく。
工務店DXの現在地
DXの定義は幅広く、いわゆる「デジタル化」=「DX」と混同されてしまうことも多い。簡単に言えば、何らかのデジタルツールを入れて特定領域の業務効率化が実現したという類の話は、デジタル化ではあるが、本来的にはDXとは呼ばないことに留意したい。
一方で、デジタル化はDXの出発点になり得るし、とても重要な取り組みである。そうしたデジタル化やDXと一口に言っても、住宅業界で実は大きな企業間格差がある(下図参照)。
DXの定義の広さや奥行きを考えれば、工務店DXはようやくスタート地点に立ったという見方をしたほうが良いし、これを大きな可能性と捉えることができる。そうした中で、約8割の工務店はデジタル化の時点で出遅れてしまっているとも言え、大きな危機感を持つべき事案でもある。現状は、デジタル化の時点での企業間の差異が大きい為、その時点での成功と失敗の差分について焦点を当てていくことにしたい。
工務店におけるデジタル化
成功企業・失敗企業の差分
デジタル化の成功企業と失敗企業の差分における主要理由については下記のとおりである。
①社内に「プロジェクトマネジメント」の仕組みがあるかないか
②DX/デジタル化が「業務プロセス変革」であることを理解しているかどうか
③経営者/経営陣の「DX/デジタル化成功に対する“見識”と“覚悟”」があるか
①社内に「プロジェクトマネジメント」の仕組みがあるかないか
まず、プロジェクトマネジメントの仕組みについて触れたい。どのようなテーマでも良いのだが、目標を定めて、決めた期間内/リソース内で成果を出す取り組みのことを「プロジェクト」と呼ぶ。
例えば、「年間紹介契約数10棟増加プロジェクト」「粗利3%向上プロジェクト」「残業時間50%削減プロジェクト」等、あらゆるテーマが「プロジェクト」となるが、それを率いることができる人・チームが不足している企業が多い。これは多忙が理由ではなく、能力・スキル・仕組みの問題である。根本的にはこの問題を解決しない限りは、いつまでも状況は変わらない。
ここでいう、プロジェクトマネジメントの仕組みとは、「①適切なゴール設定と細分化」「②ゴールを実現するアクションの仮説設定」「③仮説検証としての実行の徹底」「④実行の進捗管理と課題解決サイクル」「⑤(①~④を可能にする為の)最小単位のチーム組成」である。これらの能力や仕組みを最初から有していることは稀であるため、プロジェクトマネジメントの能力向上や仕組み構築に意識的に取り組んでいくことが必要である。
②DX/デジタル化が「業務プロセス変革」であることを理解しているかどうか
次に、デジタル化が「業務プロセス変革」であることを理解しているかどうかについて触れたい。世の中にはデジタルツールが数多く存在するが、その成果インパクトが大きいものほど、既存の業務プロセスにそのままツールを導入してもうまくいかないようになっている。裏を返せば、どの企業でもそう簡単に成功できるわけではないので、結果的に競争優位性(差別化)になるのであるが、意外とこの事実を深く理解できている組織は多くない。
例えば、デジタルマーケティングとセールスの領域でいけば、総合展示場を中心に集客と営業をしていた企業が、instagramやyoutube経由の集客と営業に変更した場合、来場時のお客様の質や状況は大きく変わることになる。
例えば、Instagramであれば、年収の幅が大きくなり、買えない層の来場も増えるのでその見極めは必要不可欠になる。デザイン重視のお客様の来場も増えるので、デザインの強みを訴求しながらも、最終的な自社の購買決定要因に引き込む新たなセールスの業務プロセスが必要になることも多い。
また、セールス担当自体が自社と競合のInstagramを日頃からインプットし、お客様がどのような情報にアクセスをしているかのキャッチアップが必要となる。コミュニケーションもInstagramのメッセージでやりとりをした方がスムーズなことも多いし、自身のInstagramアカウントを運用していることがそのまま価値付けにもなる。さらには、セールス担当がお施主様とinstagram liveを開催することも有り得る。これらは、既存のセールス業務プロセスとは大きな変化が加わっており、実際にはこれらの変化に対応することでデジタル化の成果を挙げているのである。大きな成果を得ようとすれば、単純にInstagramのフォロワー数を1~2万人以上にすれば良いというほど単純ではない。
このような業務プロセスの変更を最初から喜ぶ人や組織は極めて少ない。変更した方が良い結果になるとわかっていても億劫になるのが人であり、できれば現状維持で進めたいという意思が働く。抵抗の程度感は現場の強さによって変わるものの、大なり小なり抵抗は必ず生じる。
こうした状況を打開するには、プロジェクトチームと現場の量的・質的コミュニケーションが必要不可欠になり、とても地道な取り組みが求められる。必要なコミュニケーションにも幅があるが、「導入の目的」、「導入の効果」、「具体の業務変化内容」「行動促進の為のツール」等、現場の業務プロセスに組み込む為の実行を繰り返し取り組み続けないといけない。
③経営者/経営陣の「DX/デジタル化成功に対する“見識”と“覚悟”」があるか
最後に、経営者/経営陣の「DX/デジタル化成功に対する見識と覚悟」についてである。これまで「プロジェクトマネジメント」や「業務プロセス変革」についての差分について触れてきたが、中小企業においては、それらを最後なんとかする役割は当然、経営者/経営陣になる。
一方で、経営陣がDX/デジタル化について日々勉強していないケースも多々あり、そもそもよくわかっていないということが見受けられる。経営陣がよくわかっていなければ、「プロジェクトマネジメント」や「業務プロセス変革」の支援をすることは不可能である。優秀な管理職がいれば進むのだが、そのような不勉強な経営陣のもとで働きたい優秀な管理職はいないのが現実ではないだろうか。
当初は現場のモチベーションが高かったとしても、経営陣がDX/デジタル化の見識がないことで導入を見送ることや、プロジェクト途中で課題解決の指針を出すのではなく、成果が出ていないことへの苦言を呈するだけという状態であれば、誰もプロジェクトに取り組もうとは思わなくなる。
逆に、経営陣自身がプロジェクトを完遂させるという覚悟があれば、メンバーと力を合わせながら進めていくことができ、それによって経営陣のDX/デジタル化に対する見識が高まっていく。社員の能力差ではなく、経営陣の覚悟にこそDX/デジタル化への突破口があると考えれば、他責にせずに済むので経営陣としてもむしろ気持ちが楽になるのではないだろうか。本稿がDX成功企業を1社でも増やす小さなきっかけになればこの上なく幸甚である。
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