新築偏重依存の抜本的に見直しを
持家需要が苦戦する要因はこれまでも言われているように、所得の伸び悩みに加え、少子化に伴う住宅取得者層の減少がある。既存住宅は余っており、新規に住宅を建築せず相続すれば済むケースも多い。地方市場は地価が安価で住宅用地取得では有利だが、過疎化に加え、新設住宅取得の中核となる世代の大都市部流出が止まらず、大都市部市場以上に既存住宅需給緩和が進行している。
こうした厳しい状況にもかかわらず消費増税が断行されるようだと、一時的な駆け込み需要創出はあるが、その後は、駆け込み需要反動が増幅させる形で新設住宅需要の落ち込みは深刻なものとなろう。
住宅ローン控除に関する減税措置は2027年12月末まで延長となったほか、建築物省エネ推進と連動させる形で住宅取得に関する公的なてこ入れ施策が複数実施されているが、そもそも多大な税金を投入してまで新設住宅需要を刺激する時代なのであろうか。
大手寡占が顕著な貸家市場、パワービルダー主導の戸建分譲市場ともに一般的なビルダー・工務店にとって価格対抗しがたく、収益性、成長性に乏しい需要分野となってくる。打開策の一つは分譲事業の強化で、需要が堅調な東京近郊の首都圏を対象とした小規模戸建分譲で成長している工務店もいるが、資金力・営業力が伴わない多くの工務店には至難の業かもしれない。
工務店も本気で非住宅木造に取り組む時
もう一つは非住宅木造への進出だ。これも容易ではないが、この分野に焦点を絞って事業再構築に取り組むビルダー・工務店は増えてきた。S造やRC造から木造へという考え方だ。非住宅木造建築物需要の拡大は2050年カーボンニュートラル実現という国際公約を根拠に国が率先して推進している政策課題であり、需要拡大に向けた公的補助事業も目白押しだ。
例えば林野庁が実施しているJAS構造材実証支援事業では非住宅木造建築に使用するJAS構造材を対象に上限1500万円(大規模物件では上限3000万円)が助成される。
延床面積が大きい物件、階層が多い物件などは防耐火や構造の検討をはじめ手に余る設計工程があり、すぐには対応できないかもしれないが,延床面積500㎡以下の低層木造建築であれば取りつきやすいのではないか。
プレカット業界も非住宅木造建築への対応力強化を進めている。非住宅木造建築で使用される大断面構造用集成材や構造用LVL、最大寸法3×12mにもなるCLTなどの加工にはこれまでの木工、プレカット加工機では対応できないことから、専用機械を導入する取り組みが活発になっている。
フンデガーK2やK2i、CLT対応のフンデガーPBA、ユニチーム、SCMのOIKOS、国内機械メーカーもCLT加工対応のNC加工機開発に取り組んでいる。
非住宅木造に呼応した新しい木質構造材の開発、当該木質構造材の加工体制整備は急速に進んでおり、一般的なビルダー、工務店でも十分に参入可能であると考える。
大型特需が続く関西圏
大阪市を核とした関西地区は特別な建設需要環境にあるようだ。最も大きな動きは2025年4月~10月に夢洲で開催される大阪・関西万博に向けた建設工事が2023年初から本番を迎える点だ。会場の総面積155㌶、中央には大屋根(リング)と命名された直径70m、1周2.2km、高さ10~20m、上部の木製ボードウォーク幅30mの拠点施設が建設される。この大屋根に使用される木材製品だけで推定2万㎥。世界最大級の木造建築だ。
大阪市はこのほか、梅田駅北側の巨大跡地開発「うめきた2期工事」、さらに大阪・関西万博後、同じ夢洲で本格的に動き出すであろうIR(統合型リゾート)事業も2029年秋の開業方針が正式に打ち出されている。
こうした大型事業を受けて関西・中国・四国圏の木材製品製造・加工事業者はかなり忙しい状況に入っている。最も重要となる木質大断面構造部材は、大断面構造用集成材やCLTだけでなく、ウッドALC、NLT(ネイル・ラミネーテッド・ティンバー)といった最先端の製品も多用され、特に木材製品高次加工分野は一次製造事業者にとどまらず最終製品加工事業者まで幅広い関係者が忙しい状況になっている。
建設事業の中にはまだ木質構造材料調達先が決定されていないものもあるとみられ、23年前半あたりまであわただしく推移するのではないだろうか。関西及びその周辺圏での調達が厳しい場合、中京以東、九州などにも調達の動きが波及してくるかもしれない。特定の木質構造部材については数量確保、納期、コスト等に関する確認作業を急ぐ必要がある。
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