真の差別化が求められるハイエンド商品
では、エリア家賃相場とのGAPが大きい住宅価格を提供するオーダーの注文住宅企業(2300万円~)はどうなっていくだろうか?結論から言うと、生活費増加の圧力が低い高年収層の取り合いになると考えられる。いわゆる、「住宅こだわり層」の争いになる。
ここで注意すべきことは、オーダー系の住宅会社は、従来の自社より上の年収層が落ちてくるから問題ないとは言い切れないことである。生活費増加の圧力が低い高年収層は、少し安いからという理由でオーダーの注文住宅を購入する必要はなく、相応にこだわりを持っている。もちろん、価格は安いにこしたことはないが、充分に吟味を重ねて住宅会社を選ぶことになる。価格だけ多少おさえられていても、差別化ができていない層は市場から退出もしくは大きく後退することになるのではないだろうか。
まとめると、オーダー系注文住宅企業の中での争いも激化し、「差別化」の名のもと、金額に転嫁しなければならなくなる。原価を抑えられる程の大量生産ができる会社は少ない価格層である。そうなると、ハイエンド商品はますます金額が高まっていく。結果的に、ローコストとハイエンドの二極化が進むことが想定される。
注文住宅における今後の商品戦略
では、そのうえで、注文住宅における差別化をどうしていくべきか、その進め方について考えていきたい。ここでは大きく三点について触れたい。
まず、顧客ニーズの深堀りをより高いレベルで行うことである。実は、商談時、契約時、失注時のデータ蓄積や活用に大きな差がある。ビッグビルダーは、この顧客ニーズの捉え方に一日の長があり、その結果、柔軟な商品開発/仕様開発を続けている。特に、商談時と失注時のアンケート活用(データ収集)やインタビューを行っている企業は少ない。この積み重ねが大きな差を生んでいる。
尚、自社がニーズとして理解していたとしても、お客様がメリット(魅力)として訴求できなければ、選ばれる理由にはならないことに注意が必要だ。実際のお客様にそれが魅力として伝わるかどうかを調査する必要がある。同じような性能、仕様設備、デザインでも、お客様が欲しいと思うかは、魅力の伝え方によっても大きく変わる為である。この魅力訴求を営業の能力やセンスに委ねている会社は危険である。
戦う相手は誰なのか?
次に、闘う相手を深く知ることである。エリアトップクラスの他社商品については隈なく研究し、何が顧客に支持されているかを深く知ることは絶えず実行すべきだと考える。意外と、他社研究を徹底的に深めている企業や経営陣は少ない。
特に、商談で競合する先は必須だが、自社と直接競合している企業には限る必要はない。顧客の動きに敏感に反応し、商品に反映する速度がはやい企業が必ず存在する。どのような変化をつぶさにみることで、自社が見えていないかもしれない市場の動きをすぐに察知できる。自社で取り入れるか、あるいは、その対抗策を新たに考えるかどうかを判断するのはその後で良い。差別化というのはとても地道な道のりであることを理解している企業は強い。
最後に、顧客満足に対して、仮説検証をより丁寧に行うことである。特にオーダー型の住宅になればなるほど、細かいところまで仮説検証が必要だ。例えば、お客様はこういう使い方・暮らし方をするはずだから、コンセントの位置はここが良いのではないか?」等、家づくりを進める中で、さまざまな仮説が生まれる。そうした仮説をきちんと言語化し、建てた後に、そのとおりの暮らしをお客様ができているかを検証することが重要だ。
すべての仮説が正しく進むことは極めて稀だろうし、すべてうまくいくことをお客様と約束しようという話ではない。大事なことは、家づくりのノウハウを磨き、言語化することで社内全体に共有し、企業としての提案力を高めることが差別化になるということだ。
そもそも、規格やセレクトではなく、オーダーする必要性があるということは、その家族のライフスタイルや暮らし方に「特有の個性」があるということである。それがせいぜい数十のパターンでおさまるのであれば、オーダーにする必要はなく、パターンをセレクトすればいいはずだ。
これまではハイエンドの企業が性能の差で勝ててきた時代だが、今後もそうかはわからない。どこかで飽和する可能性も高いだろう。顧客の「特有の個性」に対して、提案力を高めていくことで、その会社にしか出せない提供価値を磨けた企業が生き残っていくのではないかと考える。
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