アーキテクトビルダーとは設計の上手な工務店ではない。彼らは時代の要請である「高意匠×高性能」への対応として設計を強化し、それを効率的にかたちにするために設計施工連携の合理化に取り組む地道な工務店だ。「高意匠×高性能」が求められる背景と設計施工連携の方向性についてまとめた。
アーキテクトビルダーの設計施工連携のあり方を考える際に整理しておきたいのが、日本の注文住宅市場の特異性である。欧米では富裕層向けの市場である注文住宅がなぜこれほど盛んなのか。まずはその背景を整理する。
ポイント1.欧米は発注・設計・施工の独立が前提
建物を建てる際の役割は発注・設計・施工に大別される。欧米の建築ではこれらは個人や法人として独立した3者の組み合わせであることが基本になる。これは欧米的な契約社会の考え方が前提となった仕組みだ。
一般に欧米の社会は自我の確立した独立した個人の連なりだと定義されている。彼らが最大限に重んじるのは自己決定だ。立場が異なる他者とは利害が対立することを前提としているため、自己決定の自由を最大化することを保証するのが契約だ。
発注・設計・施工管理・施工に携わる3者は契約により3すくみ状態となる。契約を守ることがお互いの自己決定を最大化するため、契約を遵守するように相互監視する。
ポイント2.欧米型の契約は高コストになる
一方でこの手法はコストが掛かる。契約書において金銭を支払う対価の内容を明確に示す必要があるからだ。建築の場合、契約書の一部として詳細な図面や見積り書が必要になる。図面が絵に描いた餅にならないように、引き渡されたものが契約内容を満たしていることを証明しなければならない。そのために施工中の検査が必要になる。
この検査を当事者が行うと利益相反となるので第三者が行う。契約履行を途中で確認する行為にも時間と手間が発生している。
このように発注・設計・施工の独立した3者が契約により睨み合う手法は有効性が高いが効率は悪い。個人が発注主となる住宅のような小さな建築をつくる際にはなおさらだ。このことから欧米では割高な注文住宅は金持ち向けのニッチなマーケットとなっている。
ポイント3.日本の注文住宅が安価な理由
それに対して日本の注文住宅市場は設計と施工が一体となった工務店やハウスメーカーと建て主が契約を交わす 2者間契約が主流で、建て主は一般庶民だ。多くは工事請負契約のみを取り交わし、設計監理契約は交わさない。契約がシンプルなぶんコストは下がる。その代わり3すくみのチェック機能が働かないためトラブルは非常に多い。住宅産業がクレーム産業と言われる所以だ。
この契約形態が支持されているのは、日本の伝統的な社会のあり方にある。日本人は自我が未発達であり、自己と他者との境界が不明確だ。そのため自己決定に価値を見出しておらず、曖昧に全体性を志向して社会が成り立っている。簡単に言えばムラ社会の構造をいまだに引きずっている。
ムラ社会には法の支配がないので、AとBの間には「約束」があるだけで契約は存在しない。存在するのは個人とムラとの契約だ。つまりAとBの約束はムラの成員による「空気」によって担保される。たとえばBが約束を守っていないという空気になれば、Bはムラから排斥される。この空気により担保される2者間の約束こそが日本の注文住宅の原型であり、今もそのかたちは色濃く残っている。
ポイント4.注文住宅に「設計」が導入される
ムラ社会における約束をベースにして日本の注文住宅は独自の発達を遂げた。ここ30年における大きな変化は「設計」の導入だ。もともと日本の注文住宅には設計という概念は希薄で、設計図書は軽視されていた。建て主Aと棟梁Bの間にあるのはきちんとした家を引渡すという約束だけなので、契約内容を明示する必要がなかった。大まかな計画の方向だけ決めて細部は工事の進行に合わせてその都度決めていけばよかった。
ではなぜ設計が求められるようになったのか。・・・・・
この記事の続きは、『新建ハウジング別冊・月刊アーキテクトビルダー1・2月号(2023年1月30日発行)/設計施工を究める超家づくり術<高意匠×高性能編>』(P.6~9)でご覧ください。
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