中小規模の飲食店やクリニックなどのパブリックトイレでも、広く使用されているハンドドライヤーを、1985年から手がけてきたTOTO(福岡県北九州市)は今年1月、より安心・快適に進化した『クリーンドライ吸引・高速両面タイプ』を発売した。
開発に携わった大原一真さんと入江恭亮さんに新商品の特長と、そこに込めた想いや工夫、TOTOならではの技術について聞いた。
機器水栓開発八グループ(グループリーダー)大原 一真さん
2005年入社後、クリーンドライや浴室換気暖房乾燥機の開発に従事。快適性・水滴飛散に配慮した2012年発売の現行品(TYC420型)も入江さんとともに開発した
機器水栓開発八グループ(チームリーダー)入江 恭亮さん
2010年入社後、クリーンドライや浴室換気暖房乾燥機の開発や商品企画に従事。今回クリーンドライ吸引・高速両面タイプの開発チームリーダーを担当
「クリーンドライ」進化の背景
TOTOは従来より、手洗いから乾燥まで非接触で「しっかり快適な手洗い」を提案してきた。だが、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年5月、政府が突如ハンドドライヤー利用停止のガイドラインを発令。これ以降、多くの施設・店舗でハンドドライヤーが使えなくなった。2021年4月に経団連がガイドラインを改正して利用停止を解除するも、使えない・使われない状況は大きく変わらなかった。
入社以降、17年間ハンドドライヤーの開発を担ってきた大原さんは当時をこう振り返る。「以前は外出先でハンドドライヤーを使う人の割合が85%を占めていたのに対し、新型コロナウイルス流行後は54%に減少し、使わない理由としてウイルス飛散に対する不安が多く聞かれるようになりました(*)。一方で、ハンドドライヤーが使えないことで、ペーパータオルの散乱や洗面まわり・ドアの取っ手の水濡れといった別の課題も生まれました。2012年から発売している現行品(TYC420型)は一般的なハンドドライヤーより水滴飛散が少ない特長を有するが、新型コロナウイルス影響でハンドドライヤーの使用に不安を感じる方がいるのも事実。私たちがすべきことは、利用者が不安を感じることなく、安心して手を乾かせるハンドドライヤーへと更なる進化をさせることだと考えたのです」。
(*)外出先におけるトイレ利用及び手指乾燥行為の実態調査、2022年2月、TOTO調査
3つの特長
そうして生まれたのが、新商品『クリーンドライ吸引・高速両面タイプ』だ。特長は大きく3つある。
①吸引式
②HEPAフィルター搭載
③コンパクト設計
現行品はノズルからの高速風で手に付いた水滴を吹き飛ばす「吹出式」だったが、新商品はTOTO初の「吸引式」を採用。
高速風で水滴を吹き飛ばすのは従来と同じだが、ノズルからの乾燥風と周囲の空気を吸引することで、高速乾燥を維持しながら「不安のもと」である風の吹き返しと水滴飛散をさらに抑制したのが大きなポイントだ。
また、新たに0.3μmの微細粒子を99.97%捕集するHEPAフィルターを搭載。吸引した空気はHEPAフィルターを通過して浄化され、キレイになった空気は再びノズルから吹き出して手を乾燥する風として利用される。つまり、常に清潔な風で手を乾かせる仕組みになっている。
開発チーム は、HEPAフィルターに水がかかって汚れないように、乾燥室で空気と水を分離する構造を考案。「乾燥室内で、空気を吸い込む風路と水滴を集める排水路を左右に分けています。乾燥室の形状をトライ&エラーを繰り返しながら、なんども作り込むことで、HEPAフィルターの衛生性維持に配慮した、空気と水を分離する構造を実現できています」と入江さんは自信をのぞかせる。
コンパクトへのこだわり
特にこだわったのが、高速乾燥は維持しつつ、「吸引式」や「HEPAフィルター」等の機能追加による商品のサイズ拡大を最小限に抑えたコンパクト設計。
「そもそも現行品がムダをとことん削ぎ落としたコンパクトな商品であったため、ここに風を吸引・循環させる新機構やHEPAフィルターを追加するとなるとかなりのサイズアップが予想されました。仮にモーターを2つ搭載すれば比較的容易に高速乾燥と吸引式の両立を実現できますが、それだと製品サイズの大型化は避けられないうえ、消費電力も増えてしまいます。
そこで私たちは、手を乾かす“吹き出し”と、風の吹き返し・水滴飛散を抑制する“吸引 ”の2つの仕事を1つのモーターで完結させる風路を工夫。単にノズルから吹き出した風を吸い込んで循環させるのではなく、周囲の空気も吸い込むために、あえてノズル以外から風の一部を逃がす風路にしています。1つのモーターでも高速乾燥を維持しつつ、ノズルから吹き出した風に加えて、周囲の空気も吸い込む「吸引式」に行き着いたのです」(入江さん)。
製品サイズはW300×D186×H680㎜。これなら商業施設で採用されるケースが多い高さ750mmのカウンターにも設置可能で、TOTOが長年こだわってきた水じまいや手洗い動線に配慮した「カウンター間設置」にも問題なく対応する。
折しも政府は2022年10月に「ハンドドライヤーは使用できる」とのガイドライン見直しの指針を発信。状況は改善しつつある。
「利用停止が解除されても“なんとなく不安”という利用者もいらっしゃると思います。今回の新商品は37年前から磨いてきたTOTOの風を操る技術・知恵を結集し、より安心・快適に進化させたものです。昨年8月に発売した奥行400㎜のハイバックカウンターと組み合わせることで、飲食店などのコンパクトな空間にもすっきり設置でき、スムーズな動線で水じまいに配慮した空間が可能です。是非多くの方に、安心・快適にクリーンドライを使用していただきたいです」(大原さん)。
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