ライフスタイルや住まいに対するニーズが多様化するなかで、家づくりと経営を未来へと持続していくための地域工務店の“生き方”も多様化している。地域の人たちの暮らしや住まいを豊かにしたいという想いを抱き、設計・施工など地力を高めながら“らしさ”を磨くことによって、きらりと光る独自の存在感を放つ工務店の事例を追った。
大工工務店・㐂三郎(きさぶろう、大阪府能勢町)を営む沖本雅章さん(43歳)は4年前、豊かな自然に恵まれ、古くからの民家が数多く残る大阪府能勢町に家族で移住。奥さんとともに3人の子どもを伸び伸びと育てながら、大工として全身全霊で大好きな木と向き合い、子どもの感性を養うような木の家づくりに取り組む。木のキャラクターを見極め、木のポテンシャルを最大限に引き出すことが、大工としての沖本さんのプライドだ。
沖本さんは高校卒業後、大阪府内で8年間の工務店勤務の後に独立し、主に建売会社の下請けの大工として仕事をしていた。取引先の数も仕事量も安定していたが、ある日、たまたま田舎の大きな住宅で、骨太な無垢の構造材による上棟の現場のサポートに入った時、それまで見たこともなかった、大工の手でかんな削りされたヒノキの柱に衝撃を受けたという。それまで集成の柱しか扱ったことがなかった。『ああ、木だ。すごいな、いいなあ』としみじみ感じた」と当時を思い出す。
そこから、“本物の木”と向き合って仕事をしていきたいという衝動を抑えきれず、仕事の確保には不安はあったものの、無垢の構造材による家づくりを手がける工務店からの仕事にシフトしていった。「今では、木が大好きだから、常に木に触れ、木を扱う仕事をしていたいから大工をしている」と沖本さんは語る。
木のストーリーを感じて施主と共に聖地・吉野巡礼
沖本さんは、木と山、林業について製材所や林業家、原木の市場などを訪ね歩きながら独学で学んだ。「誰かが言うことをうのみにするのではなく、自分の目で見て耳で聞いて知りたかった」。森林や林業が置かれている厳しい市場環境といった話も、もちろん興味深くはあったが、「それよりも山で味噌汁をつくって食べるといったこぼれ話や、かつて人の命よりも先祖から受け継いできた木の方が大事にされていたといったリアルな昔話がすごく面白くて、むしろそういった話を通じて、そこに携わる人たちの想いを感じられた」と沖本さんは話す。
㐂三郎の家づくりは、・・・・・
続きは、新建ハウジング新春特集号(2023年1月10日発行)18面でお読みいただけます。
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