初期段階の面談をこなせるスタッフの育成
上記の環境づくりの精度を高めながら、初期の面談に対応できるスタッフの育成も大きなテーマの一つです。リノベーション営業の一部分である初期段階の面談だけ担当(分業化)させて、その段階の接客だけはしっかりこなせるようにします。リフォーム業界では営業担当者が初回面談、現場調査、設計、見積作成、契約、さらに施工管理、アフターフォローまで一貫して担当することが一般的です。
しかしながら1000万円を超える戸建リノベーションという領域ですべてをこなせるオールラウンドプレイヤーを育てることは簡単なことではありません。だとしたら方法は一つで分業制をとり、各人の強みを活かすかたちで課される役割を限定させることが大きな解決策となります。その上で過去のフルリノベーション案件が複数あるなら平均値を出したり、モデルハウス開設に連動するかたちで標準仕様を決めたりといった整備をして、初回面談の環境づくりに必要な仕組みを構築していきます。
初回面談のレベルアップはロープレが効果的だと考えています。ありきたりと思われるかもしれませんがロープレを継続的に実施するカルチャーがある会社はやはり個々の社員の成長を実感します。ロープレは基本姿勢としてお客様への寄り沿いをベースにしながら、ポイントは3つあり、まずは初回面談の設定なら、初回面談ならではのヒアリング内容や次アポ誘導等チェック項目を用意し、社内共通の着眼点をつくること。
2つ目はなるべく実際にあった相談内容の再現をロープレの題材にすること。当初は仮想の顧客を設定するしか仕方がないかもしれませんが、案件創出できるようになった段階で再現するかたちで顧客設定していただくことをおすすめしています。3つ目はなるべく施工管理者や事業責任者など事業部全体が集まった場で行い、全員の気づきを広く共有すること。営業の部分はブラックボックスになりがちなのですが、これらを押えた上でロープレを繰り返せばおのずと接客力が高まってくるはずです。
この他に施工研修という施工管理者が事業部全員に対して、施工前、施工中、施工後の画像を用いながらプレゼンする機会を毎週つくっている会社もあります。こうしたナレッジを共有する場を設けて疑似場数を増やすことで、すべてを習得できるとは言いませんが特に現場知識に疎くなりがちなインテリア系のスタッフが、リノベーションの現場ならではの流れや業界用語をリアルタイムで習得するのに有効な機会になっています。
ランクアップさせるセミナーという接点
リフォーム業界の中で、リノベーション事業ならではの特徴の一つに接触頻度が増えるという点があります。営業フローの粒度を細かくしすぎると再現性も下がりますので、シンプルにすることが大切です。そして、複数の顧客接点の中でも、マインドセットの転換やランクアップさせるという大切な役割を担うのがセミナーです。法人向けはもちろん、新築事業でも当たり前であるセミナーが近年、リノベーション業界でも浸透してきているのは、伝える内容次第で顕在化されたニーズだけでなく、潜在的なニーズである本当に解決すべき問題を共有しやすくなること、内製化しやすく運用が容易であることも理由の一つでしょう。
そして、セミナーというステップを踏むことにより、その後の現況診断やクロージングをスムーズにさせるという効果が期待でき、営業面での生産性向上に通じるものがあると言えます。競合他社が徹底しきれていない、自社の提供価値を可視化し、セミナースライドやトークスクリプトにしていただくと仕組みづくりという観点で理想的です。
モデルハウスでの体感(右脳)とセミナーによる理論(左脳)というステップを経ることで、お客様の学びに比例して「ベストなリノベーションを通じて、理想の暮らしが実現する」これがお互いのゴールです。ただし、セミナースライドは一度作成して完成ということはありません。建て替えとリノベーションの比較表を充実させて、より二次取得者のニーズに応えたり、補助金情報を更新したり、状況に応じて常にブラッシュアップさせましょう。
正しい考え方と適切な仕組みづくり
なんと言っても建築知識、経験は信頼の源泉ですが、ご存知の通り、それらを保有しているからと言って、営業として活躍できるとは限りません。オールラウンドプレイヤーの育成を目指すのではなく分業化し、人に依存する部分、仕組みにできる部分を見極め、例えアナログであっても、できることから着手する会社と現状維持のままの会社とでは1年2年で大きな差になっていくでしょう。こうした積み重ねで、独自ポジションを築いた会社にとっては、参入障壁の高さが逆に競争優位性が持続するというメリットになっています。
以上、今回は戸建リノベーション事業の営業をテーマに、仕組みづくりの考え方について述べました。集客から営業というプロセスにおいて、特に需要を喚起する、意欲に働きかけるという「訴求」という概念は大切で、一連の仕組みづくりにより、訴求力をいかに高められるか、その役割は会社側にあるという視点が欠かせません。
今後は戸建リノベーション事業への新規参入が増えることが予測されます。一方で生産性や粗利確保等の課題に直面し、撤退するケースも増えてくるのではないかと見ています。会社規模の大小に関わらず、軌道に乗る会社と撤退する会社の分かれ目は、自社の経営資源に適合することを大前提としながら、全体設計という視点で仕組みを構築できるかどうかが大きなカギになると強く感じています。
良い土と適切な水やりで果実が実るように、ベースとなる正しい考え方と仕組みづくりを着実に進めていくことにより、成功確率を最大限に高めること、失敗確率を大きく減らすことができると確信しています。
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