【文:本紙発行人・三浦祐成】
■ローカル回帰と工務店の合理性・正当性
コロナショックやウッドショック、資材ショック、ウクライナショック、エネルギーショック、円安ショック。様々なショックが立て続けに起き、グローバル化のリスクとローカルの重要性を再確認したこの数年でした。
家づくりは本来ローカルなもので、ローカルな存在である工務店が担うほうが合理的ですし、正当性があります。
これが新建ハウジングが工務店を推し、サポートする理由の1つです。
■工務店はチェンジリーダー
こうしたショック、また人口減少や気候危機などのメガトレンド、ライフスタイルの多様化など様々な変化を機会として捉え、変化の担い手となって顧客と社会の価値を高める「チェンジリーダー」が求められています。
量産住宅会社は株主と自社のためにまず利益を追求せざるを得ず、また規模が大きな組織ほど変化に時間が必要です。
一方で工務店は社長が決めればすぐに変わることができる。工務店はチェンジリーダーとなれる。工務店が変われば、弊紙のポリシー「変えよう!ニッポンの家づくり」を実現できる。
これも新建ハウジングが工務店を推す理由で、今後も工務店が家づくりを変えるサポートを続けていきたいと思います。
■住宅が資産価値をもつ時代へ
2023年の最大の変化はデフレからインフレへのシフトです。
住宅産業にとってのインパクトは、マイルドなインフレが続けば、選別的ではあっても住宅が「資産価値」をもつ時代が来ることです。
筆者は「住宅貧乏病」という造語で暑い/寒い/光熱費が高い/ 安心して暮らせない/QOL(生活の質)が低いといった日本の家の貧しさを指摘し、これこそ「変えよう!ニッポンの家づくり」だと考えてきましたが、最も深刻な症状は「建物に資産価値がない」ことです。
マイルドなインフレで中古価値が上がっていくなら、この病を治すことができます。
資産価値が上昇していけば住宅は住むだけでお金が貯まる(=売却時の価格・賃貸時の賃料が上がる)「貯金箱」として機能し、住宅取得時・売却時のリスクは下がり、住み替えが活発化。中古住宅市場も拡大・活性化します。このことは住まい手の人生の自由度を高め、生活にゆとりをもたらします。
筆者はこうした変化を期待しつつ日本のインフレシフトを想定していますが、政府の政策次第では、また私たち産業人・住宅人や消費者が「デフレ思考」から「インフレ思考」へとシフトできなければ、デフレ回帰リスクも十分ありえます。
そうなれば不況、さらにはスタグフレーションに入り、住宅市場の低迷も長期化しかねません。これが2023年のリスクの1つです。
■ストックビジネスシフトを
工務店・住宅産業にとっても住宅が資産価値をもち性能や品質、デザインが評価されることはやりがいに、付加価値による差別化につながります。
また、善い建物をつくるだけでなく、オーナー宅のアフターを続けCX・CSを高め有償メンテ・改修で収益をあげながら、性能向上改修など売却時・賃貸時のサポートを行い、良質なストックとして次の住まい手へ住み継ぎ循環させていく「ストック循環サポート」業へとシフトしていくべきときです。
加えて住宅・非住宅の性能向上改修や中古住宅仲介・買取再販、小規模リフォームを積極的に行う「ストックビジネスシフト」することで新築注文市場の縮小下でも持続的な成長は可能です。
■これからの工務店像とは
これらのシフトには住宅を扱う「不動産力」が不可欠です。また注文住宅事業でも土地付けや土地購入のサポートが求められており、その点からも不動産に強い工務店(リアルエステイトビルダー)となる必要があります。
また今後は多様な予算や住まい方のニーズに応えるため、ミニ分譲やエコ賃貸に進出、価格の多層化&事業の多角化を進め「ワンストップショップモデル」へとシフトしていくのも1つの方向性です。
一方で、注文住宅に特化するなら、新建ハウジングが提唱してきた「アーキテクトビルダー」=設計施工力を高め善い家を提供し、ものづくりの楽しさを社内外・顧客と共有していく生き方が1つの解となります。
設計施工については「リアルな地力」が問われ、競争力に直結します。
例えば、シミュレーションと実測とVOC (顧客の声)によって想定した性能や住み心地が実現できているかPDCAしながら高めていく。知恵とスキルで強用美を高めながら安くつくり、知恵とスキルのぶんだけ高く売る。
もちろんここに挙げた意外にも工務店経営の解は無数にあります。変化が大きい今だからこそ、自社のビジョン・生き方を自由に構想してみてはどうでしょうか。
■ウェルビーイング=善い家の解に
もう1つ2023年のキーワードとして「ウェルビーイング」を挙げたいと思います。
ウェルビーイング=健全で幸福な状態は「善い家とはなにか」の解になりうるキーワードで、健康住宅や高性能なエコハウス、暮らしの豊かさ・エンタメ性、居住福祉などこれまで語られてきたコンセプトを包括できるものです。
家は住まい手が幸福に暮らすためにありますが、幸福とは日常のなかの豊かな時間や何気ない家族とのコミュニケーション、心身に不調・ストレスがないといった小さなHappy=幸福の積み重ねです。
そして小さなHappyは建築の力でプロデュース可能で、今後も様々な視点から追求すべきテーマです。
■経営者に求められる構想力
こうした変化やキーワードを機会として捉え、顧客・社会の価値とを高める「チェンジリーダー」となるには「構想力」が必要で、「構想」こそが経営者の仕事であり、また構想力の大きさも経営者の「器」の1つです。
構想のベースとなるのは経営者の「志」、最近の言葉で言えば「パーパス」です。
志・パーパスが自社のためだけでなく顧客・社会のためにもなる善なるものであれば、その構想も善なるものとなり、その志・構想は社員をはじめステークホルダーを巻き込み、顧客に届き、社会に波紋を落とし、ドミノ倒しのように広がっていくはずです。
そして経営者にとって真の「成功」とは、志・構想が社員やステークホルダーに、顧客・社会に受け入れられ、広がっていくことではないでしょうか。
売上や事業規模はその結果であり、どれだけ受け入れられ広がったかの指標にはなりますが、売上・事業規模の拡大が経営の目的ではないはずです。
また、誰かが無責任に示した「売上○円以上、利益率○%以上を目指せ」といった売上や事業規模の物差し・評価基準は経営者の自由度を奪い、志・構想実現の妨げになるばかりか、経営者が誰かの物差しを必死に実現する一昔前の大企業の中間管理職と同じになり、経営がしんどくなり面白くなくなってしまいます。これではなんのために経営者になったのかわかりません。
ショックが続き先行きも不透明な現在の乱気流のなかではベンチマーキングも効きにくい。志をコンパスに構想し、その実現に向かって仲間と突き進み、乱気流を突き抜ける。これが2023年以降を生き抜く1つの方法だと考えています。
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